譚ノ五
現から眠りに落ちて
夢から醒めた夢
夢は続くどこまでも
現と違って人の数だけ無限
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「お待たせしました」
響が戻ると、ソファーでタンタンを抱いてだらけている満と、満に猫パンチを食らわし抜け出そうとしているタンタン、それを呆れた表情で紫月が見ていた。
「満さん。何て格好しているんですか……。ほら、紅茶入りましたよ」
「いえねェ……タンタンがあまりにもマシマロのようでしてねェ。あァそうそう。買ッたのは缶に入ッたクッキーじャあなくッて瓶入りのマシマロだッたような気もしやす」
溜息をついて響は持ってきた紅茶と缶を見下ろす。
「何言ってるんですか。クッキーとかマドレーヌとかが入ったアソート缶がありましたよ」
「おや。美味しそうじゃないか」
一つ貰おう、と紫月がクッキーを手にする。
その動作一つでさえ優雅だ。
咳払いをして響は紅茶を淹れて差し出す。
「ありがとう。あれから、新聞は静かだね」
「えェ。本当に。相変わらず、春眠患者は眠ッたままだそうで」
タンタンを放してソファーから起き上がった満は一つ、二つ……三つと紅茶に角砂糖を沈めてティースプーンでかき混ぜる。
紅茶の熱で溶けた砂糖は、彼の混ぜるティースプーンがカップに当たる音と共にジャリ、ジャリ、と音を立てる。
「ボクの方でも原因が分からなくってね。ボクでさえお手上げだよ」
「そンな事言わずに、いつものように解決してくれやせンかねェ。困ッた時の鬼姫サマ頼りでしてねェ」
「獏のキミに言われてもねぇ……。それにしても、美味しいね。この紅茶」
ありがとう、ともう一度紫月は響に礼を言う。
「いえ。弟子の仕事の一つですから。あぁもう。満さん。またそんなに砂糖を入れて」
「これで良いンですよ。あッしの唯一の楽しみなンですから」
静かな空間に、満がひたすら紅茶に入れた砂糖をジャリジャリとかき混ぜる音が不協和音のように響く。
紫月も静かに黙って紅茶を飲むばかり。
一つまみのクッキーも、口にするかと思いきやソーサーに置きっぱなしだ。
「あの―――」
「あぁ、これはすまないね。クッキーを頂こうかな」
響が声を掛けようとしたまさにその時、紫月はクッキーを口に入れる。
「どうですかィ? 紫月サン。貴女のお口には、合いやしたかねェ?」
「うん。もちろんだよ」
そして再び、紅茶に口を付ける。
「まぁ、もう一度、整理をしようか」
「えェえェ。そうしやしョう」
まずは、と紫月は口を開く。
ここしばらく起こっている異変―――それは春眠だ。
春眠暁を覚えず。
「春眠と診断された人々は未だ眠り続けている状態、だったよね? ミーさん」
「その通りで。春眠暁を覚えず、と」
「そう。春の夜は眠り心地が良く、朝が来たことも気付かずについつい寝過ごしてしまう―――」
朗々と、紫月の声が静かな部屋に響く。
「ボク達の調査も無駄足に終わっていて、お手上げ状態」
「まさに。紫月サンは相変わらず、知識豊富で。
満の言葉に、紫月は口角を上げる。
「鳥の囀りがあちこちから聞こえていて、昨夜は激しい風雨の声が聞こえていたので、花も多少落ちてしまったことだろう―――」
二人は一体、何を言っているのだろうか。
春眠暁を覚えず。
その言葉は有名だ。
満はただ、小首を傾げて紫月と満の様子を伺う。
んなー、とタンタンが一鳴き。
「さぁ。目を覚まそうじゃないか。”
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