アイドルグループ“ラ・クロワ”。
かつてこの「聖なる歌姫たち」の一員だった莉莉亞の転落は、現代社会がたった一度の「過ち」すら決して許さない不寛容さの象徴と化します。居場所を追われ、病によって自分自身すらゆっくりと捨ててゆく莉莉亞。それは作者の言うところの遠藤周作がどうしても見過ごせなかった「棄教者」の傷と孤独そのものでした。
圧倒的な歌唱力すら許されぬ理不尽な世界で、彼女が最後に辿り着いたのは、たった一人のファンとの細やかな絆。地位も名誉も正気すらも失った果て、彼にすがった彼女が窓の外に見つけた「光」。
これは挫折を愉しむ物語ではありません。不条理の中で魂が死にゆく瞬間に、それでも栄光へと跳躍した人間の、凄絶なまでの尊厳の記録なのです。
個人的には、莉莉亞の共感者が、周囲を巻き込んで破滅していく皮肉もまたやるせなかったです。
この物語を読んだ読者の多くが抱くのは、おそらくやり場のない悲しみや怒り、そして深い問いかけであろうかと想像します。ですがそれはこの物語が「心に重く響く物語」であることの証明であり、同時に作者がこの作品に込めた魂への共感です。
かつて「ラ・クロワ」の歌姫として輝いていた姫咲莉莉亞は、スキャンダルによって芸能界から追放されます。かつての仲間やファンに見捨てられながらも「もう一度ガラスのくつを履いて歌いたい」と願い続ける莉莉亞。再起を目指しても、世間の冷たい視線とSNSでの誹謗中傷や炎上、そして業界の厳しい現実が彼女を容赦なく打ちのめします。たった一人残ったファンである平瀬敦志に支えられて、もう一度ステージに立つことを夢見て彼女は努力し続けますが、物語はシンデレラストーリーとは真逆の悲劇へと向かっていきます。
本作は文学性の高い悲劇であり、同時に現代社会が抱える様々な問題を描いたヒューマンドラマです。特に「社会的弱者の孤立」「報われない努力」「権力による搾取」といった普遍的なテーマが物語全体を貫いています。
「努力は必ず報われる」という言葉が、いかに空虚なものであるか。夢を追いかけることの難しさ、そして病による苦しみは「記憶」や「存在」の喪失を招き、莉莉亞を現実世界からも乖離させていきます。物語が進むにつれ、莉莉亞は「歌うこと」の意味を見出していきますが、その願いすら社会の壁に阻まれてしまいます。この描写は「努力することそのものの価値」を問いかけると同時に、「報われない努力が持つ意味」について考えさせてくれます。
『ガラスのくつ』というタイトルからは「夢」と「現実」のギャップへの皮肉を感じます。シンデレラが幸運によって幸福を掴む物語である一方、本作のヒロインはどんな努力も報われず、不条理ともいえるほどの運命に翻弄されます。それでも彼女が歌い抜いた理由は、自分と同じように苦しむ人々に寄り添うため「希望を持たぬ人々の灯になる」こと。この点によって本作は単なる娯楽小説の枠にとどまらない、社会的弱者や搾取構造への鋭い批判を描いた文学作品として評価されるべきでしょう。
才能があれば幸せ? 生まれつき才能をもらっているのはずるい? それなら才能は踏みにじられるのが結果平等?
才能には人と金が群がります。しかし、あくまでも投資であり、利息をつけて回収するのが目的なんです。回収できないと見なされれば……
これは才能以外はほとんど何ももらえなかった女の子のお話です。人は去り、常人より厳しい出来事に見舞われ、しかし才能だけは本物。
プラスマイナスでちょっとマイナスの普通の人? とは成りません。輝きに眩んだ目を閉じ、うっすら開けると、直視しがたい闇を隠すべく涙が目を覆います。
成功しているアイドルも人として幸せとはいかないようで。彼女たちが売るのは自分の才能。芸能関係者が金儲けのため動かすのは社会の仕組み。一人、対、社会。勝ち目はない勝負です。
残酷物語とは、最近は聞かなくなりました。自己責任、落ちるなら実力がないのであり、評価に偽はなく常に真。そう言われる去年今年。しかし、その言葉って真実かどうかはともかく事実にも成れているでしょうか。少し違う気がするのです。
アイドルを応援していた人、歌が好きな人、苦しくてもその先の幸せを信じる人、他にも色々な人へ。
アイドル小説の名作を書いた作者さんの新作です。
先に書かれた作品、「デブオタと追慕という名の歌姫」はサイトでも高く評価されていて、すでに読んだことがある人もいると思います。
そちらは無名の少女とパートナーが成長するサクセスストーリーでしたが、今作は人気絶頂の歌姫 "莉莉亞" が一夜の過ちから冷たい現実に突き落とされます。
辛くとも気持ちを奮い立たせる莉莉亞は、普段の言動から歌姫としての技量や誇りがにじみ出ていて、描写は重苦しくも気丈です。
展開は辛いですが、逆境を乗り越えたくなるような読み応えがあります。
この2作は、登場人物や展開に違いはあれど、利益だけを追う冷酷な芸能界や、逆にアイドルをひたむきに支える心など共通する部分はあります。
歌姫のデビュー前から描かれている先の作品とは違い、今作は芸能界の冷酷さにより焦点を当てています。
歌、ファン、芸能界……アイドルの様々な要素がさらに凝縮されています。これはアイドルというキーワードだけを使った小説ではありません。
アイドルという存在をこれでもかと煮詰め、人間を描いた、これぞアイドル小説です。
小説を読んで心を突き動かされたい。そんな人は今のうちに読んでほしいです。
これを読んで心が平坦ではいられない、そのことを2作読んだ私が証明します。