十八、川端あかり
テントの中で、寝袋に包まり横たわっていた。隣には日菜ちゃんがいる。
体が疲れているが、やけに気が張っていて、今日は寝つくのが難しそうだ。
上から吊るした優しいランプの光を眺めていると、自分が自分ではないような妙な感覚に襲われる。
鼻から息を吸って、ゆっくりと口から吐き出す。肺が伸縮する感覚に意識を傾けながら、深い呼吸を続けて、私は物思いにふけった。
五年前、引きこもり始めてから、最近になってようやく外に出れるようになってきた。
外に出ると言っても、仕事に行くわけではなく、センターに面談やレクリエーションをしに行くだけだ。
傍から見ると、中年のいい歳をしたおばさんが、ただ怠けているようにしか見えないかもしれない。実際、自分でも自分のことをそのように感じるときがある。
引きこもりは、ありのままの当人を、周りや当人自身が受け入れることで改善する場合があるという。つまり、周囲の人の視点に立つと、引きこもっている状態や仕事に行けない状態を受容するということだ。
しかし、ありのままの自分や、ありのままの状況を受け入れるのは、簡単な場合とそうでない場合とがある。
私には、それがとても難しい。
希望に裏切られる、という体験は、誰しも経験があるだろう。
私は、希望に何度も裏切られてきた。
きっと、ここに来ている「会」のメンバーも同じだ。
そうしたなか、私達の希望は、いつしか腐り始めた。
ありきたりな言葉や、人に与えられた言葉では、前は向けない。
私は、自分だけの答えを見つけられるだろうか。
今はまだ、とうてい無理そうに思う。
手垢にまみれた希望の唄を、いつかは私もうたう日が来ると信じて。
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