第11話 隠れ家

 追ってがいなくなった後、アメリアがクロに連れて行かれたのは古いアパートだった。


「うちの部隊の施設なんで探されたら連れ戻されるかもしれませんが、非常事態なのですみません」


「大丈夫。クロの判断に任せるわ。私はこういう事に慣れてないし」


 クロは器用に鍵を開けて部屋の安全を確認すると、アメリアを部屋の中に促す。そこは誰かが今も住んでいそうな生活感のある空間だった。古くて狭いが掃除が行き届いていて居心地は悪くない。


「ここでトビを待ちます。トビが戻るまで眠っていて大丈夫ですよ。お腹が空いていたら台所に食べ物があるはずです」


 クロはそう言うと姿を消した。クロが近くにいるのかいないのか分からないが、とにかく安全なのだろう。


 アメリアは近くにあった2人がけのソファーに腰を下ろした。食事をする気にはなれないのでとりあえず横になって目を閉じる。とても眠れないと思っていたのに疲れていたせいか、いつの間にか眠ってしまっていた。





 日が昇ってすぐにアパートに入ったはずなのに、アメリアが起きたときには夕方だった。


 起き上がってしばらくすると玄関をノックしてクロとトビが入ってくる。いつもは気づいたら部屋にいるのに気を使ってくれたようだ。


「申し訳ありませんでした」


 2人は座るとすぐにアメリアに謝罪した。アメリアは謝る理由が分からなくて首を傾げる。


「お嬢様が気づかないうちに危険を排除するのが私達の仕事です。お嬢様を夜中に走らせるなんて本当に申し訳ありません」


 クロが深々と頭を下げる。


「謝らないで。元々私が王都に来たのが原因だから私の責任よ。それに私なんてあんなに訓練に時間をとってもらったのに、何もできずに守られるだけだった。2人とも怪我はしなかった?」


 アメリアは心配になって2人を見つめる。


「怪我はしてないよ。敵に同業者がいなかったからね。寄せ集めだったみたいだね」


 分かっていたらアメリアを起こさずにさっさと排除したのにとトビは悔しそうだ。


 トビはアメリアたちが逃げ切ったのを確認した後、襲撃してきた人間から情報を集めて依頼主を探していたらしい。何人かたどれたが、たどった先の人物が殺されていて、それ以上は分からなかったようだ。


「雇い主はちょっと厄介な人物かもね。殺しに躊躇がない」


 トビはさらっと言った。


 クロは宿屋からこの場に至るまでのアメリアたちの痕跡を消していたようだ。


 2人が用意してくれた食事を済ませると渡された服に着替えてアパートを出る。


 連れて行かれた先も別のアパートで、何重にも偽装しているがこの場所も辺境伯軍の持ち物らしい。


 アメリアは宿を出てからずっと男の姿のままだ。命が狙われている可能性がある。移動している間は今まで気にしていなかった控えめな胸をちゃんとさらしを巻いて潰した。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る