実食

「そういえば、秋だけじゃなくて、春にも芋煮会あったんな」

 月穂が縁側のばあちゃんみたいな雰囲気で語りだしたので、俺の方も遠い目をして答えた。

「ああ、小学校の頃のな。……いや、あれは遠足の花見ついでだったろ、途中で摘んだヨモギをたんまりぶちこんでな」

 確か、あれはあれで独特の薫りがあって旨かった気がする。

 とはいえ所詮は野草なので、ヨモギの筋が歯に挟まって食い難かった気もするが。

 ……まさか、ヨモギも食いたいとか言い出すんじゃなかろうか?

 そんな俺の不安を他所に「それは小三の。私が言いたかったのは、小四の頃の」と唇を尖らせた月穂が、一息入れて続けた。

「葉桜入ってたんに、あんまり味変わらんに、なんでかなって」

 ああ、理由は何だったか覚えてなかったけど、校庭に全校生徒で集まったあれか。

 遠い目をしただけで俺は口に出さずに思い返す。

 そういえば、月穂は知らないんだっけ? あの葉桜って給食のおばあちゃんが芋煮の鍋に葉っぱが落ちてきたのに気づかずに、かなり嵩が増えてから火を通せば大丈夫とか言ってそのまま食うことになったの。

 だから、じゃなくて、の芋煮だったんだよな。

 昔のご時世だから出来たことで、当時誰も腹を下さなかったから良かったけどさ。


 んに? と、不思議そうに俺を見る月穂。

 まあ、敢えて真相を教えるまでもない話だしな。良い思い出のままにしとくか。そっちのほうが面白そうだし。

「給食のおばあちゃんにとっての意味がなんかあったんだろうよ」

 適当に答えれば、月穂も適当に返事した。

「そっかぁ」

 すげえな、それで納得するんだ。

 いや、まあ、わかってる。意味のある会話っていうか、会話することに意味がある時間だから。

 無言がだめってわけじゃない。

 ただ、なんとなく、今の時間の雰囲気的に、ぽつぽつ喋ってた方がお互いに心地良い。


 不思議なものだな、と、思う。

 地元からこんなに離れた場所にいるのに、そんなに遠くに来た気がしない。

 地元じゃない土地で別の文化とか風習とかある場所なのに、俺も月穂もあんまり変わらない。

 そういうものなんだろうな、と、思う。

 五年十年の付き合いじゃないし、これはこれで完成された関係性なんだし、一緒にいる限り、どの場所でも二人のルールは変わらない。

 折角なので、来年の春にも二人で芋煮会してもいいかな、なんてなんとはなしに思っていた。

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