第14話

春輝が沙耶を見ると、沙耶は静かに頷いた。

不安と恐怖、それに強い期待を胸に抱いて、春輝と沙耶は手を繋ぎ、歪みの前に屈んだ。

「行くよ。沙耶」

沙耶の手を握り、春輝は歪みに触れた。ふたりの視界は静かに回りながら消え、次に目に映ったのはあの日の夕焼けの街だった。

「沙耶、ほんとに戻ったよ。あの日に」

「……春輝、わたし、話せる。声が出る」

春輝と沙耶はふたり揃って歓喜に沸き、そして涙ぐんだ。

「あのね、春輝、わたし……」

沙耶が何かを言いかけたが春輝は、「待って」と沙耶を制し、「あいつが、ナイフを持ったあいつが角を曲がったら居るはずだ。戻ったらまた好きなだけ話せる。逃げよう!」と言った。

「うん。わかった」

ナイフを持った通り魔に鉢合わせないよう、ふたりは走って逃げた。

オレンジ色の街はふたりの視界の中で歪み、彼らは微笑み合いながら視界を失った。


三人が春輝と沙耶を迎える。

「通り魔が来る道を逆方向に逃げたんだ。なあ、沙耶」

しかし、沙耶は口を動かして、出てくるはずの声が出ないことに戸惑い、落胆した。

「なんで……、俺たちはちゃんと逃げたのに……」春輝も項垂れる。

過去は変えられたはずじゃなかったのか、何で沙耶の声はもどらなかったのか。

落胆して、なんだか沈んだ空気になってしまい、しばらく店内で過ごしたあと、五人は解散した。



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