2/26『田んぼ×英語×レモン』
お題『田んぼ×英語×レモン』
プロット
序:田んぼを歩いていたら、謎の英語の看板を見つけて首を傾げる
破:意味をスマホで調べようとするけど、何故か上手く翻訳出来ない
急:どういうことかと首を傾げていたら、ただのバグだった。
どこまでも広がる田園風景。
昔は何もないつまらない景色だと言われていたようだが、現代はそうでもない。
拡張現実技術の発達により、私達の視界には仮想空間に展開されたヴァーチャル看板がそこかしこに見える。
特に田んぼは開いてる面積が広く、また田んぼを持ってる人達は私達のような若者のように拡張現実のバックアップ経由で現実に被せられたヴァーチャルレイヤーの情報にアクセスしないため、どれだけ看板を立てても気にならないらしい。
結果、田舎のヴァーチャル空間は地獄と化した。
そこかしこの田んぼにはアフィリエイト看板がベタベタに貼り付けられているのである。
これはスマートメガネを装着してヴァーチャル空間にアクセスする私達若者にとっては目の毒だ。
特に、アフィリエイト率の高い18禁の看板が所狭しと並んでおり、田舎のヴァーチャル空間は本当に無法地帯だ。
これが都会なら大人もスマートメガネを装着してPTAなどの面倒くさい方々が文句を言ってくるのだが、田舎なのでそれもない。
そんなに嫌ならスマートメガネを装着しなければ良いのかもしれないが、若者にとっては今やスマートメガネは必需品で、友人との連絡や勉強、プライベートの趣味など様々なことにアクセスするのに必要だ。最近の若者はスマートメガネばかり弄っていると大人達は言うけれど、若者の私達からすれば今の老人達はみなスマホを弄ってる人ばかりだ。
あんなちっちゃい画面を弄ってて目が疲れないのだろうか。
今時の若者である私には理解しがたい世界だ。
と、そんなアフィリエイト地獄の田んぼを歩いていたらふと変な看板に引っかかる。
レモンのアイコン。
そして謎の英語の羅列。
「変なの。なんのアフィリエイトかしら?」
まあなんでもかんでもアフィリエイトとは限らないのだけれど、こんなにもアフィリエイトに囲まれててここだけレモンのアイコンと共に謎の英語が羅列されてるだけの変な看板なせいで逆に気になる。
私は虚空にあるヴァーチャルコンソールを操作して羅列されている英文をアプリで翻訳を試みる。
「……エラー。変なの。類似の案件はないか、文章検索……ダメね。ノイズな情報しかヒットしない。
あーっと、画像検索……もなし。
じゃあこのレモンの看板はなんなのかしら」
知ってる単語を組みあわて読み解こうと試みてみるが、知らない単語の方が多い。
「アルファベットなだけで英語ではないのかも」
あるいは、暗号かもしれない。
文末には謎のリンク。
開いてみるべきか。
ふと、ここで最近学校で流行っている怪談を思い出す。
宙に浮かぶ謎のアフィリエイトリンク。
それは死後の世界に繋がっており、リンクからアクセスしたが最後、死後の世界へ連れて行かれてしまうと言う。
「うーん、与太話」
とはいえ、ネットの謎のリンクは大概の場合アクセスしたが最後、ブラウザクラッシュやエログロ画像、ウイルスの感染、個人情報の抜き取りなどが発生する可能性があり、手を出さないのがセオリーだ。
とはいえ、このリンク、やけに気になって仕方ない。
私はスマートメガネをセーフモードで再起動させ、個人情報を隔離した状態でアクセスを試みた。
が、拍子抜けすることに、リンク先が見つかりませんでした、というエラーメッセージのみ。
そのエラーメッセージもダミーの可能性を考えて確認したが、どうやら本当に何もないらしい。
ただの表示がバグってただけらしい。
「なぁんだ」
私はほっとするも、なんだかとてもつまらないとも感じた。
せっかくなので、私はスマートメガネを通常モードで再起動させ、看板の横にデジタル付箋を貼り付けた。
「『このリンク、覚悟なきものは触れるべからず』、と」
これで、他の人もこの田んぼ道を通り過ぎた時、きっとこのバグった看板が気になって仕方なくなるだろう。
ささやかな私なりの悪戯である。
「ふふん、出来るだけ多くの人がひっかかりますように」
私はそうしてほくそ笑みながら、田舎道を後にした。
後に、私が貼り付けた付箋のせいでその看板は謎の心霊スポットと化してSNSでパズるのだが、それはまた別の話である。
了
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