2/22『腎臓×火×猫』

お題『腎臓×火×猫』

プロット

序:雨の日に猫耳娘を拾った青年。家で風呂に入れて飼うことにする。

破:火を怖がるけれど、大丈夫と落ち着かせる。

急:腎臓に病気がないか翌日獣医さんへ連れて行くことに。


「あ、猫」

 ある雨の日、猫娘が道ばたで倒れていた。

 全長は60cmほど。しっぽが二股に分かれている。

 十二年以上生きた猫なのだろう。

 半端に妖怪化して、見た目は猫耳の生えた全裸の人間の幼女である。

 きょろきょろと回りを見るが、俺の他に人は居ない。

「……猫か」

 猫にはあまり良い思い出がない。

 餌のやり方に失敗してしまい、慢性腎不全をこじらせた後、死なせてしまった。

 それは親と住んでた頃の話だが、今、一人暮らしを始めたばかりの俺に幼女一人養う自信はない。

 あきらめて去ろうとしたが、くいっとズボンの袖を猫娘に捕まれてしまった。

 思わず見下ろし、猫耳幼女と目が合ってしまう。

「……うちにくるか?」

「にゃあ」




 結局マンションへと連れてきた。

 まだ妖怪変化に慣れていないのか、全裸の幼女の状態のまま、四足歩行でついてこようとしたので首根っこを掴んで脇に抱えて持ってきた。

 道中他の人間に出会わなかったのは幸いである。

「……牛乳あったかな」

 なかった。

 俺は牛乳を飲んだら腹を壊すタイプなので冷蔵庫には入れてなかった。

「仕方ない。水飲め」

 コップに水を入れて渡すと、なんとか手で掴み、猫耳幼女はごくごくと水を飲み干した。

「よし、いいぞ。こっちこい」

「にゃあ」

 まだ人間の言葉はしゃべれないらしい。

 風呂を指さすと、自分から中に入っていった。

 そして、シャワーの前で両手足をそろえてふんずっと座り込む。

 以前人間に飼って貰ってた頃の習性なのだろう。

 俺がじっと見ていると猫耳幼女は不思議そうにこちらを見上げ、シャワーの蛇口をつんつんとつついた。

 猫は水が苦手なはずだが、この子は珍しくシャワーが好きらしい。

「ほれ」

 蛇口をひねると冷たい水が飛び出し「ひぎゃっ」と猫耳幼女は飛び跳ねた。

「待て待て、時間が経ったら暖まってお湯になるから」

 しばらくするとシャワーから出る冷水がお湯へと変わっていく。

「ほれ、お湯だぞ」

 俺の言葉に猫耳幼女はしばらくじーっとシャワーを見つめた後、つんつん、と指先でつつき、水ではなくお湯であると確信した後、自らささっとシャワーの下に入り込んだ。

「んなぁぁ」

 なにやら嬉しそうにお湯浴びをする猫耳幼女。

「……んー、俺もシャワー浴びるか」

 そうして俺も服を脱ぎ、猫耳幼女と一緒に狭いマンションのバスルームで身体を洗った。




 風呂上がり、流石に一人暮らしの俺には幼女用の服はないので俺の適当なTシャツを被せる。ぶかぶかだし、シャツの裾を引きずってるが、全裸よりはマシだろう。

「お前、猫の姿には戻れないのか?」

「にゃあ」

 首を傾げられた。

 無理そうだ。

「ご飯はいるか?」

「にゃっ!」

 いるらしい。

「……人間の姿をしてるなら人間の食べ物食べられるかな」

 人間には平気でも、猫が食べたら死ぬものだってある。

 ――さしあたっては。

「ほれ」

 ロールパンを投げつけると猫耳幼女は口先でぱくりと上手くキャッチした。

 そのまま床に置いた後、少しずつかじりながら食べていく。

「うーん、猫」

 彼女のおしりで二本のしっぽがふりふりと楽しげに動く。どうやらパンはお気に召したらしい。

「よかったよかった」

 俺は安心しつつタバコを取り出し、しゅぼっと、ライターの火を付けた。

「きしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「うわっ!」

 突然奇声をあげた幼女にすぐさまライターの火を消す。

「ふしゅるぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

 猫耳幼女はおしりの二本のしっぽをぴんっと立て、唸り声をあげならこっちを見つめてくる。

 彼女の視線の先には、ライターとタバコ。

「……分かった分かった。今日から禁煙するよ」

 タバコをしまいながら、俺はもう一つロールパンを投げた。

 すると再び猫耳幼女はパンをキャッチするが、すぐには食べない。口の中がぱさぱさなのかもしれない。

「ほれ、水だ」

 水の入ったコップを床に置くと、両手でコップを掴み、ごくごくと水を飲んだ。

 そして、二つ目のロールパンを食べ始める。

「……さてと、名前くらいは付けた方が良いか」

 とはいえ、見る限りこの猫耳幼女は一度は飼い猫だった時代はありそうだ。俺が新しい名前をつけるのもどうなのだろうか。

「自分の名前、言えるか?」

 俺の言葉に猫耳幼女の猫耳がぴくんっと反応する。

 ロールパンにぱくつくのをやめ、こちらに視線を送る。

「……にゃぁ……にゃあ……に……に……み……」

 何度も口を開けながら、声を出そうとしてくる。

「お、にゃあ以外の言葉を出せそうだ。頑張れ」

「み……みい……イーコ。イーコ! イーコ!」

「そうか、お前の名前はイーコなのか」

「みゃあ!」

 猫耳幼女ことイーコは俺の言葉にふりふりとしっぽを振って答えた。

「よし、じゃあイーコ。俺の名前は三嶋大仁。オーヒトさんだ。よろしくな」

「オーヒト! よろしく!」

「お、大分声が出せるようになってきたな」

 このまま行けば流ちょうにしゃべれるようになるのも近いかもしれない。

「とはいえ……服とかどうしよう。しっぱ穴のついたぱんつとか売ってるのか? というか女の子の服買うの俺にはハードルが高いのだが」

 とりあえず、結婚して子供の居る先輩に相談するしかないだろう。

「まあいいや、先のことは明日考えよう。

 今日はもう寝るか」

「にゃあ」

「寝るの好きか」

「にゃっ!」

「おーけい、今日は一緒に寝ようなぁ」

 こうして俺とイーコの不思議な同居生活が始まったのだった。




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