第13話 巨人さんは馬鹿なんですか?

「で、具体的にどうするの。」


 設楽の声がライン上で聞こえてきた。

 俺の横で、キットカットを頬張りながら、胸をどんどんしている巨人に、スプーンでお茶をすくい飲ませてやると、

「熱いんじゃ、ボケ和樹。」

 悪態をつきながらも、また、キットカットに食いついている。

 だいたい、お前が提案したんだから、聞けよ。

 そう思うが、聞いたら聞いたで超めんどくさい事を言うので、腹は立つが黙殺する。


「そうだな、クラス男子とも話し合わないといけないけど、とにかく親しい女子、羨ましいが彼女のいる奴、クラスの女子は勿論、自分達のクラスに入れてもらうよう働きかけないとな。まあ、今回ばかりは、俺達のクラスにたいしたイケメンがいないのは、ありがたいよ。」


 何せ、カード内容をモテ男にお願いしようと思うと、好きな奴がいないクラスに勝ってもらわないといけないもんな。俺達のクラスはその分、勝てる要素がある。

 三組の堂珍、二組の桂、四組の三橋。こいつら三名は俺達のモテ男ランキング、学年トップ3だ。

 奴らを倒し、栄光の一位を狙うのだ。それも、たいした労力も要らずに。


「策っているか、一組以外のクラス、自滅しそうじゃん。」

 夏目のダルそうな声が聞こえた。 


(確かに)


「でも、油断大敵って言うだろう。何せ、堂珍だもん。俺等の遥か上をいく頭の良さだよ。自分達が不利なのは分かってると思うけど。」


(確かにだ)


「和樹、何さっきから黙ってんだよ。寝るんなら、切るぞ。」

「まてまて、考えてんだよ。設楽のいう通り、堂珍や他のクラスが無策ってわけはないと思う。さすがに、二位、三位なら仕方なしって事もあるけど、最下位だけは嫌だ。それと、三組が一位なのも嫌だ、あゆたんがかかってんだぞ。」

「まあな、でもどうするよ。後、十四日まで十日しかないぜ。明日、登校日だから、説明は堂珍と俺達がして、そのあとクラスで話合うか?強制じゃないにしても、どれだけ乗ってくれるかだな。」

「決まってるだろ。」

 チョコまみれになりながら、巨人が立ち上がる。

 ただ、小さくて、迫力もなんもないけど。


「女子にノリノリ大作戦を遂行する。」


 目をキラキラさせ、自分の腰に手をあてがい、ふんぞり返りながら言う様は、見ようによっては、勇ましくカッコよくもあるのだが、何せくだらん題名をよくもここまで自信を持って言えるものだと他の面子は思っているはずだ。

 ただ、あまりにも自信に満ち溢れている為、誰もがポカンとし、もしかしたら凄い事を言っているのではないかと、錯覚してしまったのだ。


「ふふん、驚いて声も出ないのかよ。いいか、とにかく女子に、モテ男達と何かしたければ一組に入れろと言ってまわるんだ。一組が勝てば、全力でお前達が女子の要望が叶うように、モテ男、もしくは要望者にお願いすればいい。基本は本人達が出来ないものについては、しなくてもいい事になってるけど、それはお前達が土下座をしてでもカード内容に沿うよう頼めばいい事だ。いいか、とにかく、見返したいんだろ。なら、頭を下げるなり、土下座するなり、雑用するなりして、女子のカードを集めろ。この際だ、女子の代わりに好きな男子の仲介役でも情報集めでも何でもしろ。自分を殺せ、勝つ事だけを考えるんだ。」


 俺を指差しながら宣言する巨人を、スプーンでぶん殴った。

 夏目も設楽も電話の向こうで、呆れて死んでいるのが分かるからだ。

 ノッポまで、ポツリと、


「巨人さんは、バカなんですか?」


 真面目くさって、聞いてくる。

「何だと、だいたいお前らがモテないからこうなったんだろ。俺の意見は至極全うだ。普通以下の奴は、這いつくばってでも、女子にお願いしないとダメだろ。」

「三十五点なのに。」

 夏目がポロリと言ってしまう。

「えっ、三十五点って何ですか?私たちの国での技能テストなら、既に男として用済みですが。」

 ノッポが夏目の横で、トドメを刺す。

 俺の横でチョコまみれになり、意気揚々としていた巨人は、一気に死んだ。屍のように、目が虚ろになっている。

「まあ、そこはいいとして、無策はまずいよ。巨人が言っていた、勝つ事を考えるのはいいことだよ。巨人、落ち込まないで、僕は親近感があっていいけどな。」

 設楽に言われても、慰みにもならない。

 残念な王子だとしても、俺達よりは十分モテるのだ。

「とにかく、男子は結束しないとな。携帯持ってる奴は、みんなラインで繋がるようにしようぜ。夏目、ライン交換していけよ。女子の動向も知りたいから、設楽が女子担当で聞いていけよ。」

「和樹はどうすんだ。」

「巨人とノッポを各組に潜入させてみる。特に、一組の堂珍のクラスは要注意だ。巨人、呆けている場合じゃない。イチゴ味のキットカット、買ってやるから、立ち直れ。」

「だって俺、男じゃない。」

「お前が男じゃなかったら、何なんだよ。」

「だって、ノッポの奴が用済みって。」

「いちいち気にすんな。今、俺にはお前が必要なんだよ。」

「和樹、俺、役に立ってるか?」

「ああ、凄く役にたってる。」

「抹茶味のキットカットも買ってくれるか?」

面倒な奴め、

「分かったよ、それもつける。」

「俺、かっこいい?」

「もの凄くかっこいいよ。」


 ヤケクソ気味に言うと、ライザップ宜しく立ち上がり、背筋を伸ばすと腕を上げながら回りだした。

「俺、何でもやってやる。愛結のエッチな動画だってとってきてやるぞ、和樹。」

 調子に乗りすぎだが、ここはあえてグッとこらえた。

「巨人は三組で、ノッポは四組で待機だ。二組は桂とラインで聞けるから、取り合えず良しとしよう。俺達は一位を狙う。当たり前だが、その為にこのゲームを考えたんだ。夏目、設楽、巨人、ノッポ、やってやろうぜ。」

「おう。」

「うん、頑張るよ。」

「俺、やるぜ。」

「こういうのは気合じゃなく、実績なんで、メモをよく取ります。」

 それぞれのヤル気の言葉が出た。

 明日が楽しみだ。

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