顔     松下育男


 こいびとの顔を見た

 ひふがあって

 裂けたり

 でっぱったりで

 にんげんとしては美しいが

 いきものとしてはきもちわるい


 こいびとの顔を見た

 これと

 結婚する


 帰り

 すれ違う人たちの顔を

 つぎつぎ見た


 どれもひふがあって

 みんなきちんと裂けたり

 でっぱったりで


 これらと

 世の中 やっていく


 帰って

 泣いた




 ✦✦✦


 


コンビニの駐車場に車をとめて、店に出入りする人を眺めたり。

駅中のカフェで、構内に出入りする人を見下ろしたりしていると、

ふと、松下育男さんの『顔』の詩を思い出します。

このたくさんの人のなかで、心から幸せだと言い切れる人は、どれだけいるのだろう。

じゃあ自分は心から幸せだと言い切れるのかと、問いが跳ね返ってきますが。




✦✦✦




かなしみ     谷川俊太郎


 あの青い空の波の音が聞こえるあたりに

 何かとんでもないおとし物を

 僕はしてきてしまったらしい


 透明な過去の駅で

 遺失物係の前に立ったら

 僕は余計に悲しくなってしまった




 ✦✦✦




夕暮れ時の踏切。電車が通り過ぎるのを待ちながら、空を見上げる。

すごく大切なものを失くしてしまったような気がして、途方に暮れてしまう。

それでもわたしの中にあるなにかが思う。


人を信じたい。

自分を信じたい。

世界を信じたい。


裏切られても冷たくされても、すべてをゆるしたい。

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