三十路を越えて魔法使いになり、まもなく賢者になりそうな俺の異世界スローライフ。~もらった加護は不死。投げやりな舌打ち女神様が外すのあきらめた不幸パラメータって酷すぎる~
第28話 姪っ子甥っ子の幸せのためなら。
第28話 姪っ子甥っ子の幸せのためなら。
俺の不幸も大概だけどさ。
クレーリアちゃんも、俺と同じように両親を亡くしてたな。
女神様、適当過ぎやしないか?
それとも俺に何とかしろって意味なのか?
わかったよ。
俺が何とかするって。
こんな依頼が出るとは、俺だって思っていなかった。
話は聞いてたから状況はわかってるつもりだ。
けどなんだよ。
負債を抱えて逃げたって。
それ、クレーリアちゃんに関係ないだろう?
いや、あったとしても、俺が肩代わりしたっていいんだ。
これから幸せになろうとしてる俺の姪っ子だぞ?
……ったく、次から次から。
休ませてくれないったらありゃしない。
デイジナいるか?
「はイ」
音もなく俺の背後に控えてくれる。
とにかくコーヒー持って俺の部屋に来てくれ。
質問と相談がある。
誰にも知られたくない。
「わかりましタ」
俺は一言も話さずに、自分の部屋に戻ったんだ。
「メイドとしてではなく。俺の腹心として、良き理解者として、今回はお願いしたい」
「はい。何があったのですか?」
いつもであれば、俺の横に立つデイジナだが、今回は俺の向かいに座ってくれた。
「ありがとう。これを見せる前に一言だけ結論を言っておきたい」
「はい」
「俺は事と次第によっては、討って出るつもりだ。この組織全てを敵に回す。それを理解の上、見てもらえるか?」
「私は、旦那様。あなただけの味方です。それはおそらく、カーミリアお嬢様もご一緒かと」
「助かる。これなんだが」
俺はシルヴェッティさんから預かった依頼書をデイジナに渡した。
俺の考えをある程度読んでいたから、彼女は依頼書にさっと目を通すだけで理解したんだろうな。
俺は聞き逃さなかった。
彼女が『ぎりっ』と奥歯を噛みしめる音を。
「聖カルエラ教会ってどんな組織なんだ? この国の国教ではないよな?」
「はい。違います。この国はただ、受け入れざるを得なかった。とだけ言っておきます。それはフランクの世代ではなく、もう少し前のことでした。隣国との争いの際の、停戦の条件だったのです……」
「そうか。この国は、負けたのか」
「はい。妄信的に、死ぬことを恐れない兵士相手では。防戦一方でし、……だったと聞いています……。この国には元々、リリエンティエットという女神様をご神体としたリエット教という、ものがあります。それは今、聖カルエラ教によって迫害されているのです」
「そうか。もしやそのリリエンティエットさんって、俺の記憶にある人のことか?」
「おそらくは」
女神様、なにやってんだよ?
そんなにいい加減だから、負けちゃってるじゃないか……。
いや、違うか。
こっちには関与できないのか?
もしやその聖カルエラというのは、女神様を、というより。
何て言うんだ?
宗教というより、利益団体みたいなものか?
「はい。その通りだと思われます。法王と呼ばれる教祖がいて、その教祖がご神体とされていると聞いています。大元は、隣国のカルエール神聖国です。教祖は国王の血縁。おそらくはクレーリアちゃんのご両親も、生前、改宗を迫られたものと思います。闇は深いですよ?」
「そうか。カーミリアさんにも話しておきたいな。今の話を聞いただけだが。睨み合いをしてるのは、その国なんじゃないか?」
「はい。その通りです」
「カーミリアさんと今晩中に連絡取れないか?」
「はい。やってみます」
「頼んだ」
やっとクレーリアちゃんが幸せを掴もうとしてるんだ。
金で片付くならそれでいい。
そうでないなら、俺は……。
「はい。どこまでもお供させていただきます」
「ありがとう」
翌日、俺は筆頭という俺の権限で、あの依頼書を暫くは止めてもらうことにした。
クレーリアちゃんと、ジェラル君には感づかれないように。
俺はその日をなんとか誤魔化し過ごした。
デイジナにお願いして、その夜。
よく行くフランクさん御用達の店に部屋を取ってもらった。
そこにはフランク夫妻。
俺、カーミリアさん。
デイジナの五人が集まった。
「これは、ギルドに来た性質の悪い依頼です。これを読んでもらう前に、フランクさんに見届けてもらいたいことが、ひとつあるんです」
皆は無言で頷いてくれた。
俺がこうして集まってもらうからには、何か理由があると思ってくれているのだろう。
俺はその場から立って、カーミリアさんの手を取った。
「カーミリアさん」
「はい」
「こんな場で悪いとは思うけれど。俺と一緒になって、泥を被ってくれないか?」
「一緒にといいますと?」
「俺の嫁になって欲しい」
そう。
辺境伯の家族にしろと言う意味だ。
それとなくだが、辺境伯が睨み合いしているところが、件の国だとデイジナに教えてもらったからだ。
「はいっ。喜んで」
即答かよっ!
あ、うそっ。
カーミリアさん、泣きそうな目してる……。
「いいのか? 最悪、殺し合いになるんだぞ?」
「構いません。あなたのためなら。あたしだけでもこの命、使わせていただきます」
「助かる。俺の命も好きに使ってくれていい。俺は。今回だけは、勘弁できんかもしれない」
俺は例の依頼書をテーブルの上に広げた。
それを見たデイジナ以外の三人は絶句する。
俺から、クレーリアちゃんから話を聞いていたデイジナが、淡々と説明をした。
重い口をフランクさんが開いた。
「……そうか。あ奴ら、まだそのようなことを……」
「そうね。これを知ったら、あの子。絶対に……」
そう。
レオニール君のことだ。
きっと動いてしまうに違いない。
そうすれば。
「対、国家間の問題になってしまう。俺はこの国の人を巻き込むつもりはない。だから、カーミリアさん。俺と一緒に泥を被って欲しいんだ」
「言ったじゃないの。喜んで被るわよ。あたしはね。ソウジロウさん以外を夫とするつもりはないもの」
「すまない。こんなことがきっかけで、俺の嫁になってもらうのは気が引けたんだが。俺ひとりだと、最悪の場合。こっちに戻って来れなくなることも考えられてな……」
「そんなことはさせないわ。ね? デイジナもでしょう?」
「えぇ。私は旦那様の家令であり、剣でもあるのですかラ」
さすがデイジナだ。
もう、怒りは通り越してるようだな。
「ソウジロウさん、カーミリア姉さん。こんな場だけど、おめでとう。……でも、勝算はあるのかい?」
心配そうなフランクさん。
俺は笑顔でこう応えたよ。
「フランクさん。知ってるだろう? 俺は本当ならあの男爵に殺されてた。だが、こうして生きてる。俺を殺せるやつなんて、この世にはいないからな。カーミリアさんとデイジナが陽動で動ければ。俺はその間に、あの国の首は落とせるだろう」
首、国家元首、要は法王の首だ。
そりゃ俺だって、本当はこんなことしたくはない。
「ソウジロウさん。どうやって? 捕えられてしまう可能性も?」
「フランクさん。怖いのは数で押されることなんだ。それさえなければ、魔術だろうが剣術だろうが、俺の敵じゃない。俺は本来なら、村ひとつくらいの人数でさえ、影響力のない地味な存在なんだ。だがな、一度敵対してしまえば『倒せないことの恐ろしさ』を教えてやれる。大きなことはできないけどね、相手が人間だったらさ、その喉笛を噛み切ってみせるさ」
確かにフランクにも報告は行ってるだろう。
ソウジロウがいかにして牢から脱出したのか。
十数人からいたはずの兵士と、武器も持たずにどのようにして対峙できたのか。
フランクは報告書を読んだだけでは信じられなかっただろう。
ソウジロウが言っていることは間違いないのだ。
『一人くらい倒せない人』がいたとして。
『一人くらい殺せない人』がいたとして。
それが敵対さえしていなければ、無視するだけでいいのだから。
「それなら僕は、クレーリアさんとジェラル君を預かろうかね。ソウジロウさんが安心して動けるように。僕にできることはそれくらいだから。そうだろう? エリッサ」
「そうね。レオニールの、将来のお嫁さんくらい守れなくて。何が大公家ですか。安心してお進みください。カーミリア様。ソウジロウ様」
打ち合わせは終わった。
俺は大公家の馬車で家に戻ると、すぐに返しの馬車にクレーリアちゃんとジェラル君を乗せた。
乗せられた馬車に、フランクさんとエリッサさんがいたことから。
彼女らは、俺に何か理由があるのだろうと思ってくれただろう。
「詳しくは帰りしなにでも、フランクさんに聞いてくれると助かる。あの、……な」
俺は二人の髪を、ジェラル君、クレーリアちゃんの順にくしゃりと撫でながら。
「幸せになってくれよ? レオニール君、彼なら安心して任せられると思うよ」
俺は今できる、目一杯の優しい目をしてたと思う。
「ちょっと、ソウジロウさん」
「ソウジロウおじさまっ」
俺を送ってくれたベルガモットさんは、会釈をしてくれた。
二人が俺に何かを言ってるようだけど、馬車はそのまま離れていく。
「さて。中で酒でも飲もうかね。デイジナ、なにかつまみでも頼むよ」
「はイ。かしこまりましタ」
俺はカーミリアさんの手を握り、玄関をくぐり、居間へと歩いていった。
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