第2話 流れる星に願いを込めて


 自宅に帰り天体観測の用意をする。といっても大したものは持ってない。それに急だったから、ちゃんとした用意なんて出来ない。

 だから、少々適当に。レジャーシート、なにか羽織れるもの、そして水筒、くらいだろう。

 望遠鏡とかはもってない。別にガッツリ天体観測をやる訳では無いし、少しでも観る事ができたらいいのだ。


「さて、行くか」


 外に出ると少しの冷えと赤みと暗さが入り交じった空が広がる。普段はこの時間帯に外に出ることはほとんど無い。

 だからこそ、このいつもと違う雰囲気に心がざわついてくる。


「・・・この空気苦手だな」


 俺はこの夜に差しかかる空気感が苦手だ。

 小さい時はそうでも無かった。むしろワクワクしたくらいだ。

 だが、いつからかこの感じが苦手になっていた。この空気があると、何かをやらなければならないといった気持ちが襲ってくる。

 お前は何をしているのだ?と問われている感じがした、嫌になる。


 自転車を漕ぎ、目的の場所に向かう。少し街から外れ、見晴らしのいい場所に着く。

 昔はよくここらへんで遊んだ懐かしい気持ちが蘇ってくる。


「早く着いたな」


 予定よりも早く着いたせいで、流星群まで時間がある。

 俺は、水筒からお茶を飲みながら待つことにする。じっと空を見上げてみると、星が点々と光っていた。


 そして、ひどく懐かしい気持ちになる。


 久々に夜に外に出たからなのか、それとも上を見上げなくなったからなのか、星が眩しくて仕方なかった。

 目にはとても小さな光しか映らない。でもそれが、目を背けたくなるほどに輝いて見えた。


(いつからだっけ、下を向きはじめたのは?)


 ふと、そんなことを思う。

 何もやらなくなった。何も頑張らなくなった。毎日をつまらなく思った。世界に色が無いような感覚で過ごしていた。

 虚無な日常を過ごし、亡霊のように幻のように現実味のない、意味のないような日々だった。


「・・・自分は虚無なる幻ってか」


 くだらない詩のようなものを口走り、嘲るように乾いた笑い声をあげた。そして、大きなため息が漏れる。


 そんな時、空に一筋の光が流れる。


「流れ星・・・始まったか」


 ぼーと空を眺める。巨大な黒い空が広がり、光の筋が流れてくる。

 幻想的であり、どこか非日常のようにも思えた。ああ、俺が求めたものはこれだったのかと思えるほどだった。


「いいなぁ」


 そんな言葉が、口から漏れ出た。

 光輝いている空は、俺が過ごしているつまらない日常では無い。どこまでも美しく広大であり、眩しいのだ。

 これは、自分が求めていたものだからこそ、目を背けたくなり、手を伸ばしたかった。


 ふと、記憶からある言葉が思い出される。


『流れ星はね、お願いすると願い事を叶えてくれるんだって』


 誰の言葉だったか、思い出せない。しかし、なんだかとても懐かしく感じる。


「・・・願い事、か」


 流れる星を観続みつづける。時間だけが過ぎていってしまう。

 俺はスッと立ち上がり、両手を組んだ。昔の記憶から引っ張り出し、誰かがやっていた願い事のポーズを、真似る。そして、願い事を口に出す。


《世界が面白くなりますように》


 そう願った。

 一瞬だが、流れ星がピカッと一層強い輝きを放ったように思えた。まるでこちらの願い事を了承したかのように。


「・・・て、んなわけないか」


 気がつけば星は流れなくなっていた。

 幻想的と思えた空は黒く染まっており、現実に引き戻されるような感覚に襲われる。流星群が終わったと確信した。


「まぁ、いい気分転換だった。明日は土曜日で休みだし、ゆっくりとしますかね」


 俺は荷物をしまい、自転車に乗る。

 明日は休日。学校もなし。今日は流星群を見れた。これだけで、十分だと思えた。

 ほんの少しの現実からの逃避ができたような気分が良かった。


「ああ、今日はよく寝れそうだ」


 心からそう思うのだった。

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