虚無なる輝き

第1話 つまらない日常

部屋に朝日が差し込み俺はゆっくりと体を起こす。

日頃の習慣とは怖いものだ、目覚ましをかけずともいつも通りの時間帯に起きれてしまう。あわよくば寝坊で遅刻という目標を掲げていたのだが、それは無理そうだった。


「はぁ、起きるか...」


体がだるい、気がする。頭が痛い、気がする。お腹が痛い、気がする、なんかもう病気である。病名は学校に行きたくない病なんだがな。


そんな病気を患っているのは華月牡丹カヅキボタンという高校二年生の男、つまり俺だ。

まぁ、自己紹介はこのくらいでいいだろう。


俺は諦め、朝食をとり、洗面などを済まし、準備をする。寝巻き姿から、登校スタイルへ、制服の中にパーカーを着るなんの変哲もない格好にチェンジする。

学校へと向かう足取りは重く日差しが辛い。


「やべぇ、帰りたい」


そんなことを言いながら校門までたどり着いてしまった。学校まではあまり距離がないのだが、とても疲れた。


ダラダラとしながらも2年2組の教室に入り、自分の席に向けて歩いてく。


「牡丹〜、おはー」


俺に声をかけてくる奴なんてほとんどいない。声のする方へと顔を向けると、そこには机にだらんとしながら携帯をいじっているロングボブの女子生徒の姿があった。


「おはー、響華」


彼女は剣崎響華ケンザキキョウカ。高校1年から同じ組に所属しており、それなりに仲良くしている。


「今日は早いんだな」

「まぁねー、今日は朝練あったし、ちゃんと起きれたからねー」

「そうですか、いつも間に合うように来いよ」

「んー」


軽い挨拶を終え、そのまま席に着く。カバンの中身を出すのもめんどくさく、そのままにしておく。大体の用意はめんどくさいから、全部学校に置いてある。

早く学校終わらないかと考えながら朝のホームルームを終える。


(ああ、つまらない。俺は一体何をしているんだろうな。こんな訳の分からない授業を受けて、将来使うことなんてごくわずかだろうに、なんか起こらねぇかなぁー)


例えばこの学校にテロリスト達がやってくるとか、体育倉庫が大爆発するとか、空から隕石が落ちてきて、学校が壊れるだとか、非現実的でくだらないことばかり考える。はっ、中学生かよ俺は。

授業内容なんてそっちのけで、だけど携帯電話をいじらず最低限のノートだけをとって…そんな真面目とか不真面目とかの間にいるような、中途半端な態度をしている。

そんな事を6時限分過ごしているうちにチャイムがなり、一日の終わりとなる。部活動をやっていない俺はそのまま帰宅。


「今日も一日つまらなかったな。」


いつも通りの虚無感が俺を襲う。何もやりたいことがなくて、何をやっているか分からなくて、一日が無駄と感じてしまう。

ぼーとしながら、テレビをつける。

面白くない、次。ああ、これもダメだ。こんなん見て喜ぶヤツいんのかよ、と思いながらチャンネルをポチポチと変えていく。結局行き着く先はニュースになる。

特に内容を注視する訳ではないが、ニュースはマシだ。

そんな中、ふとニュースが耳に入ってきた。


「明日は流星群が見られるそうです。楽しみですね。最近多いですね…」


流星群ね…そういや昔星が好きでよく天体観測をしてたっけな。最近、空を見上げることをしてないな。

…明日見てみるか。

明日に少しばかりの期待を込めて俺は眠りについた。


その夜は懐かしい夢を見た。


昔、よく両親に見晴らしのいいところに連れていってもらって、星の観測をした。

上を見上げればポツポツと星が浮かんでいてとても綺麗だった。

その時は星座を教えて貰ってもよく分からなくて、でも、とにかく夢中だったんだ。


そんな中で、特に好きだったのは流星群。たまに夜空に流れる光に目を奪われたんだ。

初めての流星群で『流れ星に願い事をする』ってことを知ったんだ。力いっぱい叫んで星に願いを伝える、これで願い事が叶うって教えてもらった。


あれ?これは誰に教わったんだっけ?確か星のように輝いていた気がする。だけど思い出せない。


そんな思い出せないもどかしい気持ちのまま、夢の終わりが来た。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 いつも通り、目を開ける。

 だが、少しだけ違う。今日は、ほんの少しだけ気分がいい。

 何故だろう、今日は天気がいいからだろうか?懐かしい夢を見たせいだろうか?

まぁ、それでも学校に行きたくないって気持ちは変わらない。憂鬱なのはいつも通りだ。


「はぁ、起きるか…」


憂鬱さは変わらない、それでもなんだか今日は乗り切れそうな気がする。

学校にはいつもよりも数分早く着いた。いつもは遅刻ギリギリラインで登校しているが今日は余裕があった。

自分の席に着き、携帯をいじる。


「あれ?今日、牡丹早いじゃん」

「気分だよ、気分。響華早いから、朝練だな」

「あっはは〜、当たり〜」


ダラっとした様子で響華はこちらに声をかけてくる。

彼女は遅刻の常習犯ではあるのだが、部活動だけは真面目に行っている。

だからこそ、彼女が教室には既にいるならそれは朝練だとすぐに分かる。


やる気は出ない、つまらないことは変わらない、平凡であることは覆らない。それでも今日はいつもよりも楽に乗り越えることが出来た。


「ねぇ、牡丹」

「…どうした?」


普段だったら軽い挨拶をして帰るだけだが、珍しいことに響華から話しかけられた。


「今日さ、なにかいいことでもあった?」

「へ?」

「いやさ、今日なんだか元気だな〜って思ってさ」

「そんなにか」


正直自覚はない。気持ちが楽なのは認める、しかし外から見てわかるほどだとは思わなかった。


「いやいや、何となくだよ?いつもよりもキラキラ?してるって思っただけ」


キラキラか、面白い表現だと思った。

今の自分は少しでも輝いていると考えると少し、嬉しく感じてしまう。

でも、その理由を探ってみる。「いいこと」を考えてみる。


「で、いいことあった?」


一つだけ心当たりがあった、ただの思いつきで、暇つぶしのように思っていた。だが、俺は予想以上にそれを楽しみにしていたようだ。


「今日、流星群を観に行くんだ」


だから俺は、普段しないようないい笑顔で言ってやった。

響華は少し驚いた顔をしたが、すぐに笑って答えた。


「そっか、楽しんできてね」

「ああ!」


俺はそのまま教室を出ていく。ほんの少しだけ足早に。


◇◆◇◆


その背中を見ながら彼女は呟く。


「あはは、いいねぇー、楽しそうだ。ビックリしちゃったよ。」


彼女は羨んだ顔を浮かべる。そして、自身の部活動の道具を見て、ほぅと軽い息を漏らす。


「・・・私もキラキラできるのかなー、なんてね」


彼女は荷物を持ち、そのまま教室を後にした。

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