最終話 悪魔として
あれから一月あまり、メフィストはベッドから起き上がれない日々を過ごすことになった。
極限まで魔力を削られてしまったのだから、それは当然のことだった。サルガとアガリが結界を築き、せっせと魔力を補ってくれなければ、もっと長く寝付くことになっていただろう。
「まったく、これほど惨めなことはないな」
ようやくベッドに座ってミルク粥を食べられるまでになった時、メフィストはそう呟いていた。傍にいたサルガはそれに複雑そうな顔をする。
悪魔を天使に変えようとするなんて、サルガもまた予測できなかったことだ。旅団長として多くの悪魔を動かせる立場にあったというのに、動かせたのがルシファーだけだったことに、幾分か責任を感じてしまう。
「まあいい。おかげでこうやってしばらくは貴族の真似事を続けられるんだ。また逆転のチャンスはあろう」
そんなサルガの気持ちに気づき、メフィストはやり直すまでだと笑っていた。
このくらいで挫かれるほど、メフィストの野望は安いものではない。魔界の王となるためならば、また一から魂を狩り、魔力を高めるだけだ。
「やり方を変更なさいますか?」
しかし、サルガは同じやり方でいいのかと訊ねる。
もっと効率よく、メフィストやサルガたちが人間を唆すべきではないか。今回の件を受けてそう考えたのだ。だが、メフィストはそれはないなとあっさり否定する。
「しかし」
「もしここでやり方を変えれば、マステマもルシファー様も黙ってはいないさ。マステマは神に対しての反逆として本格的に戦いを挑んでくるだろうし、ルシファー様は謀反人として、やはり戦いを挑んでくるだろう。面白いことに、今までのやり方しかできないんだよ」
メフィストは嵌められた気分だなと苦笑してしまう。そして、紅茶が飲みたいなとサルガを見た。
「つまり、どちらにも干渉されないように、今まで以上に吟味して魂を狩る必要があるということですね」
そのサルガは、同じ失敗はしませんと意気込みを新たにする。と、そこにノックもなくリリスが入ってきた。
「それでこそ旦那様よ。ということで、早速、私も男たちを堕落させてくるわね。私が堕落させた分を食らうのは、アリなんでしょ」
そしてお見舞いの代わりよと、そう言ってすぐに出て行ってしまった。相変わらずの自由さだ。
「そうだな。彼女も一応は部下ということになるし」
「左様でございますね。では、私も旦那様がもっと元気になられるよう、隣街の議長でも堕落させてきますか」
「おいおい」
「いいじゃないですか。天使にだなんて、二度と考えないようにしてやらねば」
サルガは珍しく復讐に燃えた目をしてそう言い放ち、紅茶を淹れて参りますと下がった。
「確かに、俺の性分は悪魔だ。どれだけ人間を好きになろうと、堕落した甘美な魂を食らうことは止められない」
一人になったメフィストはそう呟くと、さて、次はどんな罪を犯した者にあえるだろうかと、面白そうに唇を吊り上げていた。
霧の国の悪魔~迷える魂は伯爵の手の中に囚われる~ 渋川宙 @sora-sibukawa
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