第17話 大陸由来のドラッグ
「犯行は三日から十五日と適当に幅を取って行われ続けていますが、明らかにパーツが足りませんよね」
「そうだな」
アガリに魔界の捜索を任せてから一週間後。未だに特定に至っていない中、サルガがそもそもネクロマンサーという説は合っているのかと訊ねてきた。
しかし、メフィストは他に可能性を考える必要はないだろうと思っていた。というのも、やはり切り取られたパーツがどれも出て来ないからだ。
もちろんコレクションしているだけとも考えられるが、それは最後の最後まで解らなかった時に考慮すべき可能性だ。
「仮定の話だが、犯人は男女ペアの人造人間を作ろうとしているとする。そして今、パーツが足りないように見える。ということは、他にも調達先があるのではないかな」
メフィストはそう言って、サルガの淹れてくれた紅茶に口を付ける。今日も芳醇ないい香りがしていて、サルガの腕が上がったことが解った。
「他にも調達先、ですか。まさか、墓荒しですか」
墓荒しはそれほど珍しいことではない。あれこれと売る先があるようで、被害は頻繁にある。その中に、ジャック・ザ・リッパーと呼ばれる犯人が紛れ込んでいたとしても、すぐには解らないだろう。
「そう。それを考えるべきじゃないかと俺は思っている。頼めるかな」
メフィストはそう言うと、墓守たちの記憶を盗み見てくれとサルガに頼む。
「仰せのままに」
サルガとすればメフィストを納得させることが第一なので、早速取り掛かることにしたのだった。
ジャック・ザ・リッパーの件は気になるものの、メフィストはやることが山のようにある。それに、この事件にはどうも貴族が関わっているように見えない。それが二の次になる理由だった。
前回のようにリリスと獲物の取り合いになるわけでもないし。
メフィストは誘われたパーティーに参加しつつ、そんなことを考える。とはいえ、リリスは面白い事件を拾って来る才能がある。今回もネクロマンサーなんてものが出てきそうだ。だから、調査を打ち切ることはない。
「あら、伯爵様。物憂げな表情をなさっていますね」
ぼんやりとしていたら、パーティーの参加者の一人、マクガール子爵夫人が声を掛けて来た。今日も豊満な胸を強調するドレスを纏っていて、挑発的だ。
「最近、フォグリーは妙な事件が多いようですね。それを考えていました」
メフィストはにこっと微笑んで答える。すると、子爵夫人はあらあらと面白そうに笑った。
「確かに妙な事件が多いですわね。そう言えば最近、大陸由来のドラッグが流行っているとか。それで変な事件が多いのではありませんか」
そしてそんな情報を教えてくれる。
「ほう。大陸由来のドラッグ、ですか」
興味がなかったのでその手の情報は集めていなかったので、メフィストは子爵夫人を自分の横に座らせながら訊ねる。
「ええ、そうですの。甘い香りがして気持ちよくなれるそうですけど、凄く依存性が高いのだそうですわ。私、葉巻も嫌なのでそういうのに手を出しませんけど、殿方の中には、危険を無視して嗜む方もおられるそうよ」
子爵夫人はあくまで自分はやっていないと、そう語ってくれる。どうやら中毒症状は相当酷いもののようだ。
「殿方、ですか。となると貴族の中にも」
「ええ。どうやら下々の女と情を交した時に分けてもらって、それで嵌まる人がいるんですって。信じられないわ」
子爵夫人の言葉に、メフィストは驚くことになる。なるほど、やけに自分はやっていないと強調すると思えば、そういう背後があるせいか。
下々の女と情を交すとは、つまり娼婦を買ったということか。そしてその時、性感を高めるためにドラッグが使用されているということか。
ジャック・ザ・リッパーの被害者も娼婦だ。これは何か繋がりがあるのだろうか。それとも、単なる偶然だろうか。
「伯爵様、まさか興味をお持ちですの」
黙り込んだメフィストに、子爵夫人がずいっと顔を寄せてくる。その顔は心配と嫉妬がない交ぜになっていた。
「大丈夫ですよ。私の興味は今目の前にある大輪の花に釘付けですのに」
「まあ」
メフィストの口説き文句に、子爵夫人はすぐに機嫌を直してくれた。そしてメフィストも、別の観点を得たお礼として、子爵夫人をダンスに誘う。
「一曲お願い出来ますか」
「一曲で宜しいのかしら」
くすくすと笑う子爵夫人は蠱惑的だ。リリスのおかげでそういう表情を見慣れているメフィストは何とも思わないが、他の貴族ならばイチコロだろう。
「さて、どうでしょう」
一応は気を持たせる一言を口に乗せ、メフィストは子爵夫人と共にダンスの輪に加わったのだった。
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