23話 謙太④

「それに僕にはまた違う不満もあったんだ」

 謙太の語りは続いていた。 

 恵まれたルックスと豊富な女性経験、謙太の話に実感を持って共感できる者はこの場にいなかったが、自分とは違う恵まれた者の経験こそを聞いてみたいと思うのが人の常だろう。誰もが興味深く彼の話を聞いていた。


「……僕と釣り合いの取れる女の子が少ない、ってことなんだ」

 ……ったくコイツは!流石に腹を立てても良さそうな発言だったが、謙太の表情には一片の曇りもなかった。つまりコイツは自慢話をしたいわけでも我々を挑発したいわけでもなく、純粋に本気でそう悩んできた、ということだ。

 そしてコイツの顔と……顔だけなく全身から溢れる上品さというかオーラというか(俺は目に見えないオカルトチックな話は大嫌いだが、そういったものが現に人間に備わっていることは紛れもない事実だろう)を見れば、それが誇張でもなんでもないことが分かる。

「あ、僕自身は女の子のルックスにそんなにこだわる人間じゃないんだよ、これは本当に!色んな女の子と接してみたいといつも思ってきたし、逆にファッションと美容と恋愛にしか興味がない……みたいな女の子はつまらない、と思うようになっていった。……でもさ、一緒に歩いていると周囲の人や街の人の目がどうしても強く刺さるんだよね。『え、なんでこんないい男がこの程度の女と歩いてるの?』ってね。……そして、それを僕自身が時折感じてしまっていたんだ。街のショーウインドウに映る僕と女の子を比較するとどうしても違和感を感じるんだよね。その女の子のことは確かに好きなんだよ?……でもどうしてもそう感じてしまうことが何度もあったんだ」

 モテる男の悩みなど、元々共感しがたいものだったが、今度はまたしても飛び抜けた悩みだった。

 俺はルックスに恵まれた人間はそれだけで人生アドバンテージだろ!と思っていたが、そういう人間にはそれなりの悩みがあるのかもしれない。

 でも謙太の言うことは一面の真理かもしれないが、それをこうして言葉にできる……というのは間違いなくこの男がナルシストであると言って良い証拠のように思えてきた。

 そして次の言葉に俺は衝撃を受けることになる。


「でも、どっちの悩みも一気に解決する方法に気付いたんだ。……それは僕自身が女の子になれば良い、ってことさ!」



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