22話 謙太③
謙太の話に聴き手はあまりノリきれていない感じがした。セックスにおいてそこまでの境地に(その程度の境地と笑われるかもしれないが)達した人間がこの場にはいないということなのだろう。
「……まあそうなってくると、女の子が本当にイッたのか、演技だったのかっていうのが分かるようになってくるんだよね。今はそういうハウツー本みたいな情報も幾らでも得れるけど、僕の場合は女の子との実技の中で磨いてきた技術だから間違いないよ。『本当にキモチ良かった』ってほとんどの女の子が言ってくれて、それが自分も嬉しかったなぁ」
謙太はそこで遠い目をした。幸福な過去を振り返っている……と見るのは早計だろうか?
「でも、そんなにセックスでイカせまくってたら、別れる時大変なんじゃないのか?女の方が離れてくれないっていうかさ」
さっきから質問しているのは俺ばかりになっていた。……全くオナニー話に関しては饒舌なくせに女の話になるとからっきしとは、ホントどうしようもない奴らばっかりだな!
「そうなんだよ!だから高校から大学に入る時に一回人間関係をリセットしたんだよ。女の子だけじゃなくて男たちの嫉妬もあったし……まあ男の嫉妬なんてのは女同士の争いに比べたら可愛いもんだけど」
「……そうか、モテるのはそれはそれで大変なのかもな」
俺には想像も付かない苦労だ。
「まあ今思えばそんなに大したことじゃないよ。で、大学入って以降は特定の彼女を作らないようにしたんだ。……それでも僕は女の子に飽きた、とか距離を置こうって思ったことは一度も無いね。女の子はいつでも素晴らしい存在だと思ってるよ」
謙太の心境が俺には理解出来る……と言ってしまったらそれは嘘になるだろう。俺自身もセックスにおいて相手をイカせることを、そこまで意識してはこなかった。ましてやセックスによって相手を繋ぎ止めておくことなど、俺には思い付きもしなかった。セックス中は女たちは気持ちよがってはいたが、あれが演技ではなかったと言い切れるほどの経験が俺にはなかった。
「それでさ……不思議な話なんだけどさ、だんだん少し羨ましいっていうか、女の子に嫉妬するようにもなっていったんだよね」
「……あ?どういう意味だい?」
謙太のさらなる心境の変化についていける気もしなかったが、それでも興味はあった。
「何て言うのかな……さっき長田さんも言っていたけど、セックスにおいての男の射精の快感なんてほんの僅かなものじゃん?もちろん女の子の方も僕を気持ちよくしようと色々してくれるよ?僕が特別早漏だとかそういう話でもなくて……男の快感には限度があるっていうか、多分これはセックスにおける男と女の根本的な差っていうかさ……」
「分かりまっせ、謙太さん!セックスする前はあんなにムラムラしてたのに、終わった後は何であんなことに情熱を燃やしていたんだろうって、虚しくなりますわな!」
しばらく黙っていた長田が、ここぞとばかりに相槌を打つ。
もちろん俺もこの意味は大いに理解出来た。いわゆる賢者タイムというやつだ。男の性欲というのは射精によって驚くほど一気に落ちる。射精前と後では別人のようになる、というのはどんな男も経験していることだろう。
「そうですね……だから多くの男は女の子をイカせることにこだわったりもする。でも、それって何て言うか根本的な性欲じゃないんじゃないかなっていう気がしたんだよね」
「ふぉふぉ、まあ二次的な性欲とでも言うのじゃろうかな?純粋な性欲というよりも、男の場合は征服欲とか所有欲とかそういった欲求の方が強くなる場合も多いじゃろうな」
爺さんが学のある所を見せてきた。今までそんなインテリっぽい一面は見たことがなかったが、爺さんほどの深みを持った人間ならば、むしろ学がない方が不自然だという気もしていたから別に驚きはしなかった。
「そうなんですよね!……と言っても当時の僕はそこまで考えを突き詰めていたわけじゃないんですけど。単純に『女の子は何回もイケて、しかもその一回も声を止められないほどに気持ち良さそうで羨ましいなぁ』っていうくらいだったんですけどね」
謙太の話は止まりそうもなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます