六月は恋の花咲く季節です

親王殿下のご学友


 九時にお迎えの馬車がやって来て、八人分?のお弁当、そしてお茶とコーヒーをいれた魔法瓶、この世界でもあったのでね、さっそく利用しました♪

 さらには、この間のクッキーと同じモノを作って、けっこう一杯積み込んだのです。


 試合場所は帝都高等師範学校附属中学の校庭、馬車の御者さんがなにか学校関係者に話しています。

「雪乃様、洋子様、こちらでございます」


 なにやら観覧場所とか書かれており、一応テントと長いすが用意されています。

 私たちはその最前列、よく見える場所です。


 この日は快晴、若い殿方が並んで開会宣言なんてやっておられました。


 私たちが席につくと、ナニやら視線が痛いのが分かります。

「雪乃様、注目されていますよ」

「洋子様もでしょう」

 

 これは下品な姿勢での観戦は出来ませんね、親王殿下にご迷惑が掛ります。

 背筋を伸ばし凜としたお嬢様……隣には洋子様、半端なく綺麗ですからね。


「雪乃様、親王殿下がおられますよ♪」

「ほんと、緊張されているのかしら?」


 洋子様が、

「雪乃様が応援に来られたのですから、世の中の殿方は緊張されるのは当然ですよ♪」

「いい加減、雪乃様はご自分を理解されなければいけません」

 洋子様ったら……


 こんなことを喋っていると、後ろの方で……


「おい、殿下の応援って……まさか……」

 

 なるほど、やっとこの茶番劇が理解出来ました。


「ねぇ、この観戦、私たちのお披露目のようですよ」

「でも雪乃様、どなたかの妻にはなられるのは、公表はされていますから、いいではありませんか?」

「そうですね、まぁ、偉い方達の思惑は関係ありませんね、私たちは殿下の応援をするだけです!」


 そんな話しをしていると一回戦が始まりました、親王殿下の試合です♪


 親王殿下は善戦しましたが、試合はストレート負け……

 私たちは思わず黄色い声で、もの凄く注目を浴びたのですが、精一杯応援したのですよ。


「残念!でも、親王殿下、運動は苦手とお聞きしていたのに、精一杯戦われて……なんか凜々しくて♪」

 ほんと、慶子様に言われましたが、私、間違い無しに恋する乙女です♪


「本当に!苦手の物にも挑戦されて♪」

 洋子様まで……

「試合結果はいいのよ、ご努力されている姿勢が男らしいわ♪」


 親王殿下がやってこられました。

 一回戦負けの殿下に、この後の出番はないとのことです。


「殿下、惜しかったですね♪でもご立派でした♪」

「面目ない……」


「そんなことはありません、私たち、殿下を誇りに思いますわ♪」 

「とにかく、お座りになりませんか?この長椅子、まだ座れる空きがありますから♪」

「こちらにお座りください」

 洋子様が私の隣を勧めます。

 恥ずかしそうに殿下は腰を下ろしました。


「お疲れでしょう、まずはお茶でも、お茶請けはこのクッキーをいかが?これ私が焼きましたの♪」

「えっ、雪乃さんが?」

「お弁当も二人で作りましたのよ、楽しみにしてくださいね♪」


 ペチャクチャと私たちの他愛無い話を、殿下はニコニコして聞いてくださります。

 ますます好意を持つ私と洋子様です。


 あっという間に、お昼となりました。

 

「殿下、お探ししました、お昼はなににしますか?今から購買に買いに行きますが?」

「殿下、こちらの殿方は?」

「親友の脇坂と神津です、幼馴染で初等科のころからの悪友です」


「初めまして、私は朝比奈雪乃、こちらは上泉洋子様、どうぞよろしくお願いします」

「君たち、雪乃さんは王女殿下だ」


 ご学友は唖然としていました。

「まことにお綺麗な方で……まことにうらやましく……」


「お昼とのことですが、ちょうどよかった、殿下の為にお弁当を作ってきたのですが、作り過ぎて……食べていただけませんか?」

 よかったわ、ご学友の分まであるわ……私たちは洋風バスケットで十分ですし……


 特製の三段のお弁当を差し出しますと、さらに驚愕しておられる殿方三人です。

 脇坂様、確かこの方は脇坂伯爵のご子息ですが、

「美味しいですね、うちの姉は料理が下手で……」

「そんなことをいってはいけませんのよ、お姉さまも愛する方の為には、美味しいお弁当をおつくりになるわ」


「そうですかね……」

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