Fight

白昼夢 3



・・・!


「ここはどこ?」

真っ白だ、なんにもない。地に足はしっかりついているけど、それ以外を感じる事ができない。こんなところ初めてだった。きっと、宇宙ってこんな感じなんだろうな、なんて考えてしまう。いや待てよ?宇宙は無重力だし、地面もないんだからやっぱり違うんだな。


にしても、いつの間にか私はここにいた。どうやって?そんなのわからない。目が覚めたらここにいたんだもの。なのに来る前の記憶もない。何にもないというのが妙に怖い。誰か、せめて誰かいないの?

「リュドミール君・・・。」

私は思わず、つい最近話した人の名前を呼ぶ。リュドミール君は私がよく行く喫茶店のマスターの息子さんだ。まだ子供なのに、本当にしっかりしていて私なんかよりよっぽど大人でびっくりする。私は全然ダメ。たまたま一緒に行動しているメンバーの中で年上だからって頑張ってみるけど、お気楽な私は今まで長い間気張っていた事がなかったから空回りの連続。

何が起こったか、さっぱりわからない。

怖いことばかり、身の回りに起こる。

でもだからこそ、みんなに頼ってもらえるような年上にならないと・・・。

例えば、ママみたいに。


・・・・・・。

ダメダメダメ!

寂しいなんて、思っちゃダメ!

確かに寂しいけど、そう思えば思うほどもっと寂しくなって耐えられない!今は一旦、自分の事は忘れて・・・いや、ママやパパの事は忘れちゃダメ。あーもう、しっかりして、自分!!

気合を入れるため両頬を掌で叩く。痛・・・あれ?ちっとも痛くない?

「・・・さっきから何やってるの?」

「ひゃう!?」

突如後ろから声が聞こえる。心臓が飛び出るかと思った。足音も何もしなかった。いや、どこから現れたの!?白くて長い髪をした小柄で細い女の子が呆れ顔で私をじっと見つめる。

いや、ほんとお人形さんみたいな綺麗な子だな・・・。

私は羨ましいという気持ちを込めて見つめ返した。

「夢かどうか確かめてるの?」

うん、まあ夢みたいだけど・・・。ん?痛くないっていう事は、これは夢なの?

「私、自慢じゃないけど夢を一度も見た事なくて・・・。」

多分、あの子の問いに対する答えにはなっていないと思う。

「見た事なくてもさすがにこれが現実じゃないってわかるでしょ?いろいろな事があったから頭がごちゃ混ぜになってるのもわかるけど。」

淡々とした、なんかそっけない話し方だ。年はリュドミール君たちと同じかそれより下ぐらいに見えるけど、今時の子供ってみんなこんなに落ち着いているの?

・・・ていうか、誰?

私と君、初対面だと思うんだけど、なんか私のこと知ってるみたいな言い方だよね?

「早速だけど聖音、あなたにお願いがあるの。」

女の子は私に一枚の紙を握らせた。

「お願い・・・え?なにこれ・・・魔法陣?」

丸い円の中に幾何学模様みたいなものや数字が描かれている。こういうの、よくアニメやゲームでお目にかかるのでなんとなくわかる。

「あなた、人間?」

失礼な。ただの漫画やアニメの見過ぎなだけですよーだ。

「こういうのが出てくる漫画とかよく見てるからね!」

と、どこか自慢げに答えてあげた。でも女の子の反応はとても白けている。すごく虚しい。

「あっそ・・・そうだよ。これは簡易式転送魔術。距離は限られているけど、少ない魔力の消費で済むメリットがあるわ。」

・・・?

さすがについていけなかった。いきなり魔術の話になるんだもの。私は軽い気持ちで娯楽を楽しむ程度にしか見ていないからわからないよ。

「これはね、今あなたがいる世界のいろんな場所に描いてあってそれらと全部繋がっているの。この魔法陣を地面に描くと、同じ魔法陣が描いてある場所に飛ばされるのよ。」

「つまりはテレポートだね!」

よーく聞いているとなんとなく理解できた。思わずテンションが上がってしまった。ますますファンタジーだ。

「話が早いじゃない。そうよ。ただ、残念なのは場所が選べない・・・ランダムで飛ばされるということよ。ま、魔物がウジャウジャいるような危ない場所には無いと思うけど。」

女の子がようやく笑ってくれた。でもどうせならもっと年相応な子供っぽい無邪気な笑顔を見せて欲しかったけど、まあいいや。

「お願いというのはね、リュドミール君が危ない目に遭いそうな時にこれを描いて、守ってほしいの。」

・・・なんで、リュドミール君なんだろう。

この子はリュドミール君の知り合いなのかな?それとも、他のみんなを省略して言わなかっただけなのかな?どちらにせよ、私にみんなを守ることのできる方法があるならなんでもいい。

「でも、私、本当に人間だから、こんなの出来るの?」

そうだよ、こんなの、誰にだって出来ることじゃ無いよ。できたら、私のいた世界は剣と魔法のファンタジーになってるよ・・・。なんで私なんだろう。任されてももしできなかったら、それこそもう・・・。

「大丈夫よ、だってあなた、使えるじゃない。」

「え?」

使えるって、何が?私、人生まだそこまで生きてないけど記憶の限りでそんな不思議な魔術とかいうの使えたことなんか一度もないよ?何を言っているの?すると、突然目の前に白い霧がかかった。女の子が霧に隠れて消えていく。

「待ってよ!わからないよ!ねえ、もう少し詳しく・・・きゃあ!!」

霧だったのが今度は煙となり、風になって私のところへ一気に襲ってきた。何も見えないし、息が苦しい。もたもたしているうちに女の子は完全に見えなくなり、一瞬にして視界が真っ暗になった。白かったり黒かったり、大変だ、なんてどうでもいいことを最後に考えながら・・・。

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