第2話 巨人を食料として解体する寒冷地の人々
雪原に敵機ーーぼくたちは生体兵器ではあるが、ぼくの知る限り「巨大ロボット」という表現がいちばん近いので、ここは機としておくーーの頭部がゴロゴロと転がった。
首から上を失った胴体はそのまま立ち尽くしている。
傷口から噴水のように血が吹き出し、たちどころに凍りつき、赤い霧となって吹雪のなかに消えていく。
外気はぼくが思っているよりもずっと寒いらしい。
コクピットのなかで、ドストエフが通信機のスイッチを入れた。通信機の根元はコクピットの壁、すなわちぼくの肉体の一部に埋め込まれている。ぼくには何らかの発電機能が備わっているらしい。
ぼくと彼は、彼が握る操縦桿を通し、ある種の精神感応でつながっているために、ぼくは彼が生身の目で見るものを見、彼が聞くものを聞いた。
ドストエフが通信機にいった。
「こちら西門、敵機を仕留めた。ゴンパン一機だ。熱盗賊の偵察機だろう」
通信機の向こうで歓声があがる。
「ありがとう隊長! さすがだ!」と、野太い声。
「これは市長。いらしていたのですか」
「もちろんだよ。我が市の防衛の要である君の活躍を見守らずしてどうするのか。わたしたちが今日という日を生きていられるのは、君のおかげだ」
「はは、おおげさですね。わたしが勝てた理由があるとすれば、我が愛機ヴァミシュラーのおかげですよ」
ヴァミシュラー、つまりはぼくのことだ。
ぼくの身体が右を向いた。
傷を負った脇腹が激しく痛んだ。
視界が小山を捉えた。
いや、山ではない城塞都市だ。
ひとつの丘全体を巨大な壁が取り囲んでいる。壁の麓には氷で作られたと思しきドーム型の小屋が、壁の根元に張り付くようにして並んでいる。
壁の向こうには、塔の先端と思しき建造物がいくつも突き出していた。
塔と塔の隙間からは真っ白な湯気がもくもくと立ち上っている。
城壁の一部に隙間ができた。
いや扉が開いたのだ。
わらわらと人が湧き出してくる。
ぼくから見ればネズミほどのサイズだ。
誰もが分厚い防寒具をまとっており、男女の区別もわからない。ただ、小さいのは子供だろう。元気に雪の中を跳ね回っている。
彼らは手に巨大な包丁やノコギリのようなものを握っていた。
かんじきを履いた足をちまちまと動かし、するすると雪上を移動すると、二手に分かれた。片方はぼくが切り倒した人型巨大兵器の胴体に。もう片方は頭部に向かう。
頭部に向かった人々が先に取り付いた。手にした道具で装甲を切り剥がし、露出した肉を削り取り始める。胴体に向かった方は、両足首を砕いて、文字通り立ち往生している肉体を切り倒そうとしていた。
ぼくの体内で市長の声がスピーカーからいった。
「おかげで、今夜は久しぶりの肉だよ」
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