第46話 練磨-(11)

 竜華はきょとんとする。

 ユキムラの言葉の意味を理解すると、今度はからからと快活に笑った。


「いいね、お前。いきなり最強か。面白い。だが、最強になってどうする?」

「最強になって、俺は禍神をこの世から消し去ります」

「消し去るだと? 奴らは殺しても殺しても湧いてくるぞ? 偽夜の内側はいつまで経っても救えない。それでも、やるか?」

「はい」


 ユキムラの覚悟は揺るぎないものだった。

 一度道が見えると、それに付随するように様々な思考が整理されてゆく。今まで一体何を悩んでいたのだろうと不思議に思えるくらいには、目標が洗練された。

 これは弱い自分に課した枷であり、罰だ。両親や白蓮を失った悲しみから、立ち直ることはできていない。おそらく、一生立ち直ることはできないだろう。だが、傷を癒し、傷痕にすることなら可能だ。そのためには、前を向いて歩かなければならない。立ち止まらず、一歩ずつ、着実に。

 竜華は神妙な面持ちで考え込んでいたが、やがて口を開き、


「お前、私の若い頃にそっくりだ」

 

 と、どこか悲し気に言う。


「そうなんですか?」

「ああ。そりゃもう、瓜二つだ」

 

 喜んでいいのか、よく分からない。だから、力なく愛想笑いだけ浮かべる。会話が途切れたところで一つ、気になったことを口にした。


「……そう言えば以前、父にも同じようなことを言われたことがあります。意志の声を聴け、と」

「それはそれは。随分と帰天師っぽいことを言う父親だな」

「ええ。『伝説の帰天師』と自称してたくらいなので……恐らく嘘だとは思いますが」


 しかし、改めて考えてみると、偽夜が起こった日の父は、幾分か帰天師のように思えた。

 伝説と呼ぶにはあまりに弱かったが。御光様の心音にいち早く気付いたり、不可解な点が何個もあったので、念のため確認しておく。


「父の名は火伏マサユキと言います。聞き覚えがあったりしますか?」

「いや……無いな」

「そうですか」


 若干期待はしていたものの、やはり父の名は周知されていないらしい。このことから考えられる可能性は、殆ど一つだけのようなものだった。

 即ち、あまり有名でない帰天師だったという可能性だ。これならば、全ての辻褄が合う。不可解な点が消えて無くなるわけじゃないが、少なくとも矛盾は起こさない。


(だが、決めつけるのはまだ早い。情報が不足しすぎだ)


 ユキムラが父の正体について選択肢を絞った後、余韻のような、心地よい沈黙が流れた。

 そして、竜華は立ち上がり、


「……だがまあ、若人よ。日々精進だ。督促しておいてなんだが、お前が選んだのは修羅の道に違いないのだからな」


 そう言って微笑すると、象牙色の髪の麗人は屋根から飛び降りた。

 結構な高さがあるはずなのに、ものともせず羽毛のように着地する。その身体能力にユキムラは舌を巻きつつ、いつかあれを超えなければならないと決意を固くした。


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