狂濤戦・エピローグ
〈事件調査レポート〉
件名――鳥谷 水鈴の失踪について
被害者――一名
容疑者――退魔士一名、協力者不明
結果――被害者は無事救出。容疑者は重傷だが命に別状無し。また、暴霊獣の霊薬と蛇神家の関与について調査を要求する。
追伸――これは毎回書かないといけない書類なの?
「……はぁ、面倒臭い。何で私がこんなの書かなきゃなのよ」
「一応有希も生徒会の所属になったからねぇ。記録はしっかりしないとぉ」
「それなら日辻がやりなさいよ。今回は無事解決したのだから羽くらい伸ばしたいのだけど」
喫茶店の珈琲を啜りながら封筒を横の昼行灯に押し付ける有希。例の救出作戦から二日、夕陽の差し込む店内で吉報を待つ日々を過ごす。待つしか出来ない、と表現すると負けたような気持ちになってくるので言わない方向で。
――鳥谷 水鈴は無事救出、あの後に無事送り届けた。彼女の父親からは深く感謝されたけれど、当の水鈴本人は未だ眠り続けている。神化論と名乗った際の事を聞き出せれば良かったのだが、こればかりは快復待ち。逸る訳にはいかないだろう。
そして蛇神 望は今は不在、東京の方にあるらしい退魔士の総本山に赴いて一連の事件の調査に勤しんでいるらしい。実家になら何か手掛かりがあるかもしれないとの事だったが、蛇神の当主は用心深い男らしい。正直期待は出来ないだろう。
「無事解決、かぁ。〈石化〉使う羽目になってそれが言えるなんてねぇ」
「……黒羽君だって覚悟を決めた。私もこの
少女は窓の外を見遣る。眼鏡越しの瞳は黄金の色、珊瑚の赤の面影も無い。それでも未だ映らぬ色の先と向き合う事を決めた有希の表情は、何処か寂しそうに映って。
「――さて。此処まで聞いて、何か意見はあるかしら、黒羽君?」
「……意見らしい意見は何も。何か言って現状が好転する訳でもないからね」
――呼ばれたのでカウンターの奥から顔を出す。二人の前に焼き立てのホットケーキをことんと置いて、相槌の代わりに溜息を溢す。
「怪我の具合は?」
「完治、ぴんぴんしてる」
「なんでよ」
「根気と魂」
面倒な話題は適当に流す。僕の身体の具合のような無価値な話題に費やす時間なんて持ち合わせてはいない。今重要なのは、これから先の話だ。
「……
「そうね。まるで自分が神にでもなったかのような振る舞いで、人が変わってしまったような感じで」
「成程。オーケー、そういう感じなら僕にも手伝える事がありそうだ」
「……黒羽君?」
――前を見据える。判っている、僕は何も救えない。今回だって水鈴を救おうとしたけれど、道半ばで力尽きてしまった。けれど、それでも。何もしないなんて選択肢が見えたところで、それを選ぶような気質ではない。わたしも僕も、その本質は変わりはしない。
「――有希、此処からは僕も君の力になるよ。調査とか雑用くらいしか出来ないけれど、君の覚悟を僕にも背負わせて」
「……黒羽君」
鴉は誓う。何処までも半端な自分だけど、それでも力になりたいと願う気持ちは本物だ。有希が茨の道を征くのなら、塞ぐ茨を引き裂く爪になろう。たとえこの腕が鮮血に塗れようとも、少しでも彼女の手助けが出来るのならば。きっと、それ以上に嬉しい事は無いはずだから。
「――ありがとう。これからもよろしくね」
「……うんっ!一緒に頑張ろっか!」
――この時の私達は未だ知らなかった。この一件は波の一つに過ぎない事を、後に千羽を揺るがす大事件に繋がる事を。初めての神化論との戦いを小さな波と捉えた私を侮蔑するべく、この戦闘に名を付けよう。
荒れ狂う大波の意を込めて、『
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