ハテノハツカ……06

 晴れきった空の下、切り立ったような岬に立っていた。深い青だけがそこにあった。

 地面に、一回りおおきな影が落ちる。


 ほら、ごらん。どうやらここが果てらしい。


 声が聞こえる。足元のはるか下に雲海が広がっていた。

 重なった影が、一歩分伸びる。


「世界を閉じるだけでいいんだよ。片目を閉じて、意識に鍵をかけるんだ」


 後ろから肩越しに顔をのぞかせて、聞き覚えのある声でささやく。するすると滑り落ちた髪は白く、絹のように細い。夜をたたえたような黒髪だったはずなのに。

 私は、彼の薄い唇が言葉を紡ぐために動くのを、今になってはじめて見たことに気がついた。


「あなたは──」


 振り返ると、そこにはただの枯れ木が一本、静かに佇んでいるだけだった。

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ハテノハツカ 環境 @lotus_

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