第66話 強い力と想いに押されて

 本をぎゅっと抱きしめて、本棚の所にゆっくりと歩いていくミツバ。息を飲んで様子を見守るナツメ達とは違い、アルノはただニコニコと笑っている

「ねぇ、サクラ……ミツバは大丈夫だね……」

 恐る恐るツバキが問いかけても、サクラは答えずミツバから視線を離さず見つめている

「もうサクラが、本で悩まないように……悲しまないように、私は何度だって……」

 まだあちらこちらから聞こえてくる声の中から微かに聞こえるミツバの声。ふぅ。と一つため息をついて、重たくなったミツバの本のページをゆっくりと開いた。すると、ミツバの周りに、ふわふわと浮かぶ本達が、ミツバの本の中に飲み込まれていく



「前よりも、すごい力……」

「ミツバ一人で大丈夫なの……」

 強い力に押されてミツバに一歩も近寄ることができないナツメ達。本に囲まれたミツバの後ろ姿を見て更に不安が募っていく

「サクラ……」

「なに?ミツバちゃん」

 微かに聞こえたサクラを呼ぶミツバの声に返事をすると、ミツバがゆっくりと振り返った。不安な気持ちを拭おうと微笑んでいるサクラを見て、ミツバもぎこちなく笑った

「終わったら、ホノカと私の分のお菓子を用意してね」

「うん、たくさん美味しいお菓子用意するね」


 サクラの返事を聞いて、またクスッと笑いあう二人。そのやり取りを見ていたナツメ達は、更に不安が募り、アルノはまた笑う。みんなの視線を集めたミツバ。また本棚に向かい直すと、さっきよりも深いため息をついた。サクラと話をしている間にも、本の中に入っていた本達のせいで、さっきよりも大きく重たくなったミツバの本。その本が、ミツバの手を離れ、ふわりと浮いて本の周りに光が溢れていく。眩しい光がミツバも包んでく。しばらくすると光が消えると、ミツバの目の前に現れたのは、サクラに振りかざした大きな剣。その剣を手に取ると、ふぅ。とまた深呼吸をして目の前にある、アルノの本棚に向かってゆっくりと振りかざした







 


「……起きないね」

「そうだね。前も大分眠ってたから、今回もしばらく起きないかも……」

 ユリとツバキが話している前では、ミツバがベッドで寝ていた。アルノの家のサクラの部屋で寝ているミツバ。そのすぐ側で二人が少し大きな声で話しをしても起きる様子のないミツバを、ナツメと一緒に見守っていると、ふとツバキが何か思い付いたようにユリの方に振り向いた

「もしかしたら、サクラがお菓子作ったら起きるかも」

「……ツバキじゃないんだから」

 ツバキの提案に呆れながら返事をするユリ。二人の会話をミツバを見つめながら聞いていたナツメが、ポツリと呟いた

「アルノさんも起きないんだよね」

「うん。サクラがずっと見てるけど……もう起きたかな?」

「まだアルノ様は寝ていられますよ」

 ナツメとユリの話しに突然家政婦達が入ってきた。ビックリして三人が振り返ると、部屋にあった紅茶を置いて、コップに人数分淹れはじめていた

「みなさんも、少しお休みになられた方がいいですよ」 

「……サクラは」

「サクラ様は、アルノ様とずっと一緒にいます。お呼びしますか?」

「ううん。大丈夫……」

 紅茶を受け取りながら元気無く答えて、三人紅茶を飲んでいると、家政婦達のカチャカチャと片付けはじめた音が部屋に響いた

「もうすぐお食事が出来ますので、みなさん食堂にお集まりくださいね」

 そう三人に話しかけ、部屋を出ていった家政婦達。後ろ姿を見届けると、ナツメがふぅ。とため息ついて椅子から立ち上がった

「ミツバ、ユリ。食堂に行こう。ご飯食べなきゃ……」

 ナツメに諭されて、渋々ミツバを置いて部屋を出たユリとツバキ。パタパタと廊下を歩く音がミツバの眠る部屋まで聞こえている。食堂に入ったのか、足音が聞こえなくなると、寝ていたはずのミツバが、そっと目を開き、枕元に置かれていた本の方にゆっくりと顔を動かし呟いた

「本……私の本だけ残ったんだ……これで良かったんだよね」

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