第36話 思い出す、その前に

「サクラ!ここ!」

 街から少し外れた路地裏にいたユリが、空を飛び、ユリ達の姿を探しているサクラを見つけて大きく手を振る。サクラもユリを見つけて、大急ぎでユリの側に降りてきた

「ユリちゃん、大丈夫?」

「大丈夫。助かったよ」

 サクラが地面に降りてすぐ、ぎゅっと抱きしめあうと、サクラがユリの周りを見渡して、ナツメとツバキの姿を探しはじめた

「あれ?ナツメちゃんとツバキちゃんは?」

「さあ?途中ではぐれちゃったから、今どこいるかは分かんないけど……」

 と、二人で話をしていると、フラフラと壁にぶつかりそうになりながら、ミツバもユリの側に降りてきた

「ミツバも来たんだ……」

 ユリがポツリ呟いていると、無事に地面に着地出来て、深くため息ついて安堵しているミツバが、ユリとサクラを見つけて微笑んだ


「ユリさん、大丈夫ですか?」

「う、うん。大丈夫だけど……」

「ユリちゃん、本を見せて。直せるか見るから……」

 二人の会話を止めるように、ユリに慌てるように話しかけるサクラ。恐る恐る本を出すユリ。本を受け取ろうとサクラが手を伸ばした時、ユリの本を見たミツバが指を指した

「ユリさんが持ってるその本……」

 と、呟くように言ったミツバの言葉に、ユリとサクラが同時にミツバの方に振り向いた

「確か、サクラさんが破ったはずじゃ……」 

「待って!」

 何かを思い出し言おうとするミツバの慌てて口を塞いだサクラ。急に塞がれて、驚いて体が固まるミツバ。そんな二人の様子を、ユリが怪奇そうな顔で見てる

「……どういうこと?」

 サクラに詰め寄るユリ。ミツバの口を塞いだまま顔を背けて何も言わないサクラ。二人の間に緊迫した雰囲気が流れて、二人に挟まれているミツバ。目をキョロキョロと動かして困っていると、突然声が聞こえてきた

「やっぱり……何を隠してるの?」

 少し怒ったような声が聞こえてきた。声のする方を探し辺りを見渡すサクラとユリ。すると、三人の真上から、二つの人影が現れ、三人とも空を見上げた。ふわりと降りてくるナツメとツバキ。地面に現れるなり、ミツバを見つけると、ナツメが睨みつけた


「ミツバ!いつまで忘れたふりしているの?本当は、何があったか知ってるんでしょ?」

 ミツバの口を塞いでいたサクラの手を払い、ミツバに詰め寄るナツメ。怒った表情と強い口調に少しずつ後退りするミツバ

「私はなにも……」

 小さく首を振りナツメに返事をするミツバ。ナツメだけでなく、サクラやユリ、ツバキもミツバを見て言葉の続きを待っている

「……ツバキ、帰ろう」

 しばらく待っても何にも言わないミツバに、はぁ。とため息ついてすぐ、ふわりと空を飛び帰っていったナツメ。置いていかれたツバキがナツメの飛んでいった姿を見て、慌てて空を飛んでいった


「私……」

 ナツメに詰め寄られてからずっと、うつ向いたままのミツバ。か細い声に気づいたサクラが、ぎゅっと抱きしめた。その様子を隣で見ていたユリが、破れたままの本を消した

「ミツバちゃん、お家まで送るよ」

「うん……ありがとう……」

 か細い声で返事をするミツバの声を聞いたサクラ。ミツバにクスッと微笑んで、ぎゅっと優しくまた抱きしめた

「あっ。でも、お家に帰る前に、ホノカちゃんの分のケーキ取りに帰らなきゃね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る