第33話 あとちょっとだったのに
「みなさん、今日は本を書かないのですか?」
気分変えようと、ナツメとユリに話しかけたミツバ。声をかけられ、ちょっと驚きつつ二人顔を見合わせ、ちょっとだけどうしようかと考える
「後で気が向いたら行くかもね」
「どこでどういう風に書いているのですか?」
「どういう風って言っても……ミツバだってもう書いているんだから、聞かなくてもいいんじゃない?」
「いえ、書きたいと思って書いてはいないから……」
ミツバがユリとナツメと話していると、サクラが目を擦り、さっきまでの元気は無く、少しボーッとしている様子に気づいたツバキがサクラの服を引っ張った
「サクラどうしたの?」
「ちょっと、お腹一杯で……」
ツバキの声に、慌てて笑って答えるサクラ。すると、サクラの返事を聞いたユリがサクラの頬をフニッとつまんだ
「夜中から張り切ってケーキ作って、あまり寝てないもんね」
ユリの言葉を聞いて、サクラが頬をつままれたまま苦笑いしていると、ナツメがケーキのおかわりを取りながらはぁ。とため息ついた
「部屋でちょっと休んできたら?」
「うん……少し寝てくる……」
ナツメの提案に素直に聞いて、部屋へと歩いていくサクラ。心配そうに見ているミツバに気づいていないのか、振り返ることもなく、パタンとリビングの扉を閉じ、部屋へと歩いていった
「まだお昼前か……」
「さすがに張り切りすぎだね。いつでも、会おうと思えば会えるのに」
ケーキを作っていたサクラを思い出して苦笑いするユリ。同じく笑うナツメ。サクラがいなくなり、鞄から本を取り出しテーブルの上に置いた。ナツメ達もミツバの本に気づいて、笑顔が少しずつ消えていく
「この本……みなさんとは違うんですよね?」
「まあ、そうだね。ちょっと違うよ」
と、ユリが返事をした時、ミツバが驚いた表情でユリの方を見た。するとなぜか視界がぼんやりとなって、段々とユリの姿が見えなくなっていった
「あとちょっと……だったのに……」
サクラの声で目を覚ますミツバ。ぼんやりとした視界の中、しょんぼりと話すサクラの所に、ミツバが少しうつ向きながら近づいていく。少しずつ鮮明に見えてきた二人の周りは、見たことのない荒れ地。二人以外の人がいる気配のない中、サクラと共に歩みを進めていく
「いいの?サクラ……。ナツメ達だっているのに」
「仕方ないよ。ミツバちゃんとも約束したから……」
「でも……」
前を歩くサクラを追いながらも少し不安そうなミツバ。足元がおぼつかない道のりをゆっくりと歩く二人の両手には、落としそうな程たくさんの本を持っていた
「でも、もう少し頑張ってみよう……本はまだたくさんあるから……」
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