まなツインテール、もっと。②



「ほら二人とも、言い争ってる場合じゃない! レッドがピンチよ!」


 イエローとブラックを言いくるめ、ブルーがシールギルディに近づこうとするが――


「ええい、寄るなテイルブルー! 貴様の息は何か生肉をかじりたての野生動物のような臭いがしそうだ!!」


 遠回しにお口くさそうと謂れのない中傷を受け、ブルーが固まる。


「な……あ……あたしはちゃんと歯磨きしてるし……口臭なんて……」


 身体を震わせ、か細い声で反論する。

 変なところで女の子らしい……と言ったら本人は不本意かもしれないが、愛香あいかは匂いを指摘されることに敏感だ。弱点と言ってもいい。


「そうだぞ、気にするなって。いつも言ってるだろ、ブルーはどこも良い匂いだって」


 その度に俺は人として当然のフォローをするのだが、


「えっ……/// いつもって……どこもって……やだ……誤解されちゃうじゃん……///」


 ブルーは俺の方をちらりと見ると、トゥアルフォンを取りだし、熱心に操作し始めた。



 ▼今日のエレメリアンもノンデリの変態だけど、レッドが優しくフォローしてくれたよ☆

 でもあたしのこと「どこも良い匂い」って言ったら、それこそ匂わせみたいだよね♡



『まーたこのゴリラは戦闘中もお構いなくSNSに何も上手くないカス投稿してドヤる!!』


 通信でトゥアールの呆れ声が聞こえ、ブルーが何をしているかが判明した。

 戦闘中にSNS投稿――イマドキヒーローの在り方を見た思いだ。 


『何度しょぼい匂わせ投稿しようが世界中からスルーされるのに、めげませんねえ! 何故このダイヤモンドメンタルで自分の匂いに触れられるとしょげるんですか愛香さんは!?』


 おそらく世界一の愛香専門家アナリストであるトゥアールが謎を解明できないのなら、幼馴染である俺でも無理だ。


 シールギルディはブルーを指差しながら、俺に同意を求めるように交互に見てきた。


「何だか知らんがあの、板が板を操作するおもしろムーブ、思わず噴き出してしまいそうだ! テイルレッド、お前も俺の眼前でブフッと噴き出してくれ!!」


 笑えないんだよなあこの後何が起こるか経験則で熟知してるから。

 せっかく……いやせっかくって言うのもおかしな表現だが、せっかくブルーがしょげておとなしくしていたのに、シールギルディは余計な追加口撃で彼女の野性に火を点けてしまった。


「板板うるせえええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」


 目を赤く染め上げ、だいぶお腹空いてるときに獲物を見つけた野生動物のようなワイルドなダッシュでシールギルディに突進するブルー。


「あわわわわお待ちくださいブルー!!」


 イエローが両手をピンと広げて行く手を阻むが、ブルーは一ミリも躊躇う様子がない。トップスピードのままイエローに組み付き、互いの腰パーツをグリップして押し合いを始める。


 唐突にツインテール場所の大一番が始まってしまった。


「いきなり土俵際ですわああああああああああああああああああああああ!!」


 ツインテイルズ一の重装甲を誇るイエローも、ブルーの怪力の前には為す術がない。道路のアスファルトを踵の装甲で削りながら、みるみる後退していく。


「や、約束したではないですか! 戦いはわたくしたちに任せると! これからのために……ツインテイルズの明日のために!!」


 イエローは自らのツインテールを硬化させ、アンカーとして地面に打ち込む。完全脱衣形態フルブラストモードの発射反動に耐えるための姿勢だ。


「明日のことより今その変態をブン殴らないと気が済まないのよおおおおおおおおおおお!!」


「怒りで未来を捨てよったこのゴリラ!!」

 呆れ果てたブラックが、イエローにアドバイスを送る。


「脱げ、イエロー! 装甲を射出して貧乳を跳ね飛ばすのじゃ!!」

「あふんっ」


 イエローは言われたとおり全脱衣パージし、弾け飛んだ装甲がつぶてのようにブルーを打ち据える。

 掴んでいた腰パーツが急に取れた反動もあってつんのめり、ブルーは地面に両手をついた。


 これで勝負あり、と思いきや――


「まだまだああああああああああああああああ!!」

「諦めずに向かってきますわ―――――――――――――――っ!?」


 イエローのブラジャー型の胸装甲を頭に乗せたまま、ブルーが突進を再開する。で、またイエローに組みつく。


 たとえ地に手をつこうと、生命ある限り負けを認めない――。

 この横綱、国技を捨ててバーリトゥードルールで相撲をとっている!!


「ちっ、これはいかん! 助太刀するぞイエロー!!」


 見かねたブラックが参戦し、イエローと二人がかりでブルーを食い止め始めた。

 俺の仲間たち……何やってるの――。


「うおおおとくと見よ、これがトップアイドルの全力相撲じゃあああああああああああああ!!」


 先日野外フェスで数万人を沸かせたアイドルが、必死の形相で相撲をとっている。


 さしものブルーも、イエローとブラックが全力でぶつかってきては力任せに押し切るのは難しいようだ。徐々に拮抗して……いや待ってやっぱブルーがちょっと押してるわ。何で。


「わらわたちだけの力で貴様に勝てなければ……トゥアールが安心して旅立てんのじゃ!!」


 血を吐くような必死の叫びを上げるブラック。そんな前提だったっけ……。


「今日ここで、わたくしはあなた以上の蛮族になってみせますわ、ブルー!!」


 ならなくていいんですが……。


 ブルーに当てられて、イエローとブラックまで気が動転してしまっている。

 エレメリアンそっちのけで謎い身内争いを繰り広げる仲間たちを前に、俺は肩を落とし、


「はーあ……」


 大きな溜息をついた――


「テイルレッドの溜息、しかと頂戴した!!」


 ――ら、目の前にシールギルディがいた。

 ぎょっとして飛び退る俺を余所に、シールギルディは全身から夥しい闘気を立ち昇らせる。


「甘いそよ風が俺の五体を駆け巡る……力が漲る……!!」


 拳を握り締め、身体を震わせ、深呼吸をする。俺の溜息をもれなく呑み込み、そればかりか自己の体内で何度も何度も反芻し、血肉と化して巡らせているかのように。

 立ち昇る闘気はあちこちでスパークまで帯び始めた。マジでパワーアップしてしまっている。


「フッ……しかし、溜息をつくと幸せが逃げると言うが……それを吸った俺の全身は多幸感で満ち満ちている! 溜息は幸せを逃がすのではなく、他の誰かを幸せにするために旅立たせるのだろう……世の中うまくできているものだな、テイルレッドよ!!」


 いい声で世にも不気味な暴言を吐き散らすシールギルディ。

 久しぶりに気が遠くなる気持ち悪さだ。


「むっ……テイルレッドの意識が薄れてゆくのを感じる! 人工呼吸が必要とみた!!」


 俺が目眩を覚えたのを敏感に察知し、シールギルディが余計な気遣いをしてきた。そっちがしようとすんのかよ人工呼吸!!


 困惑を塗り込めるような強大な殺気を感じて振り返る。

 ブルーが進化装備エヴォルブアームズ・エターナルパッドを取り出し、エターナルチェインへと強化しているところだった。


 そのそばでは、相撲で疲れ切ったイエローとブラックがゼイゼイと息を切らしている。


「おお……いい汗かいて荒くなった息……素晴らしい! ぜひ俺に浴びせてくれ!!」


 二人の激しい息遣いに興奮したシールギルディが、吸い寄せられるように近寄っていく。

 その先には、完全解放ブレイクレリーズしたウェイブランスエクシードを振りかぶるブルーの姿が。

 まるで火中に飛んで行く夏の虫を見るような、儚く遣る瀬ない光景だった。


「エクストリームウェ――――――――――――――――――――――――――――イブ!!」


「ちょっ……これはヤバい……テイルレッド……人工呼吸頼む―――――――――――っ!!」


 必殺の槍撃が命中し、シールギルディはあえなく爆散する。

 人工呼吸しろと言われても、木っ端微塵になってしまっては……。


「「あ――――――――――――――――――――――――――――っ!!」」


 気づいて振り返るも、時すでに遅し。イエローとブラックが悲鳴にも似た叫びをハモらせる。

 槍を投げたブルーは正気に戻ったのか「やっべ」とバツが悪そうにし、イエローとブラックは恨み眼を向ける。


「……はあ……」


 今一度俺の口から、小さな幸せが旅立っていった。 




【TSS2へ 続く――】

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