俺、ツインテールになります。
水沢夢
短編
まなツインテール、もっと。①
心を持つ存在ならば、人間も、その他の様々な生物も、それぞれに「好き」の形がある。
そして何かを好きな気持ちは、何物にも勝る大きな力になる。
〝
その属性力から生まれ、属性力を糧に生きる異形の生命体――エレメリアン。
高度な知能と人間を遥かに上回る科学力を持つ彼らは、アルティメギルという巨大組織を形成して無数の異世界をわたり、そこに暮らす人間たちから属性力を奪う。人類の天敵というべき、恐るべき存在だった。
しかし人間も、為す術無く心の輝きを奪われるばかりではない。属性力を自ら使うことで、エレメリアンに立ち向かうことができる。
俺、
ある日俺は、異世界からやって来た科学者の少女・トゥアールから、ツインテールを愛する心〝ツインテール属性〟によって駆動する空想装甲テイルギアを託された。
テイルギアをまとうことで、俺はツインテールの戦士・テイルレッドに変身する。
俺はツインテールへの愛で、ツインテールになるんだ。
そして俺はツインテールを愛する仲間を増やし、〝ツインテイルズ〟としてアルティメギルと戦いを繰り広げ……ついにアルティメギル首領を倒した。この世界を守り抜いたのだ。
アルティメギルとの長きにわたる戦いは終わった。
けれどエレメリアンは、人間の心から生まれる生命体。人間が存在する限り生まれ続ける。
俺の世界には今も、恐るべき侵略者が襲来し続けている。
俺たちツインテイルズの戦いは、今も続いているのだ――。
「頼む! ふーってして、ふーって! 俺の横顔……いや待て、やっぱ鼻先に!!」
厳つい胴間声で懇願され、俺は言葉を失い立ち尽くす。
…………………………このように俺の世界には今も、恐るべき侵略者が襲来し続けている。
今、俺たちの世界に来ているのは、大組織に属さない戦士。いわば野良エレメリアンだ。
夏休みのとある日。スポーツ大会が行われている競技場にエレメリアン出現の報を受け、俺とブルー、イエロー、ブラックは現場に急行した。
そこにいたのは、オットセイのような太長い胴体から、屈強な四肢が生えたような見た目のエレメリアンだった。
「何でお前に息吹きかけなきゃいけないんだよ……」
俺が当然の疑問を返すと、エレメリアンはなお当然だと胸を張った。
「俺が息を愛する属性……
「息の属性ェ!?」
息が好きって……変わってるなあ。
『だからスポーツ大会の会場に現れたんですね……みんなはあはあしているから』
基地でオペレート中の
やや語弊があるが、つまりここにいる人の多くが運動して息を荒らげているから、息が好きなこのエレメリアンには天国だということなんだろう。
ご覧の通り、属性は千差万別。人それぞれ、自分だけの大好きがある。
俺たちがエレメリアンと戦うのは、彼らがその大切な心を奪おうとするからだ。
「我が名はシールギルディ! テイルレッドよ、お前に決闘を申し込む!!」
「駄目よ」
突然の決闘の申し出。俺の隣ですでにだいぶ苛立っている様子のブルーが秒でNGを突きつけるが、シールギルディは構わずに続ける。
「勝負の果てにもし、俺が意識を失ってしまったその時は……」
そして拳を握り締めて溜めを作り、かっと双眸を見開いた。
「俺に人工呼吸をしてくれ!!」
エレメリアンが変態じみた発言をすると、決まって俺のツインテールがふわりと舞い上がる。
だいたい俺の隣にいるブルーがカッ飛んで行くからなんだ。もう慣れた。
「ぐぎゃ――――――――――――――――――――――――ん」
そして無慈悲な攻撃が始まり、エレメリアンの悲鳴があたりに響きわたるのがお決まりのパターンだ。もう慣れた。
意識が明瞭なまま、足による心臓マッサージ(心停止促進)を受けるシールギルディ。
「侵略者の分際でキスしてとか、どんだけ図々しいのよ!!」
「違う! 別に口の触れ合いなどに興味はない! 俺はただ、テイルレッドの息を自分の体内にうんと送り込んで欲しいだけだごああああああああああ!!」
必死の弁明も虚しく、ブルーのストンピングは勢いを増し、悲鳴という名の息が空に昇っていく。
しかしその蛮行に抗議の声を上げたのは、シールギルディ本人ではなかった。
「ブルー! そのエレメリアンと戦うのはわたくしたちですわ!!」
「わらわたちの力を信用しとらんのか、貴様!?」
テイルイエローとテイルブラックが、周囲にいた数体の
二人がブルーを咎めるのには訳がある。本来ブルーは、トゥアールに
それでも気になるから出撃はさせて欲しい、戦いはイエローとブラックに任せる、と二人を納得させてついてきたのだが……案の定、エレメリアンを前にしたら我慢できなかったようだ。
「勘違いしないで! 二人を信頼してないんじゃなくて、あたしがこいつを殴りたいだけよ!!」
「これで下手っぴなツンデレとかじゃなく本心だから困るわこの女……」
軽くずり落ちた眼鏡が、ブラックの心情をまざまざと表している。
「手出しはしない約束ですわよ!?」
「こんな鬼気持ち悪いヤツ放っとけるわけないでしょ!!」
ブルーがイエロー、ブラックと言い争いをしている間に、シールギルディはゴロゴロ転がってストンピングを脱出。そのまま俺の足元まで転がってきた。
「やかましい仲間たちだ……気苦労が絶えまい、テイルレッドよ」
エレメリアンに同情された……。肯定はできないが、否定もしない。
「お前の溜息、全てこの俺が受け止めてやろう。さあ、どんとこい!!」
抱き着いてくるのを待つように諸手を広げるシールギルディ。
俺はヒエッ、と軽く息を呑む。どうしよう、自分の呼吸を意識するようになってしまった。
「ふざけんじゃねーぞ怪人!」
「レッドちゃんが嫌がってるじゃない!!」
ある程度距離を取って囲いを作り見守っている一般人たちが、シールギルディに猛抗議する。
怪人が暴れても避難してくれないんだよ、この世界の人たち。
「静まれい人間ども! 貴様たちだって、テイルレッドの吐息だけ吸って一日過ごしたいと思ったことは一度や二度ではなかろう! 我らは同志だ!!」
「くっ……何も言い返せねえ……!!」
拳を握り締めて悔しがるギャラリーの男性。
えっ……言い返してお願いだから……。
「小生などはむしろ、地球の大気が全てテイルレッドの吐いた息と入れ替わって欲しいと願っていますからねえ」
どっかの偉い学者さんみたいな人が、不敵な笑みとともにそう呟く。
二酸化炭素の比率が一〇〇倍以上になっても生きていくのに支障はないと豪語する新人類が現れ始めた。助けて……。
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