第53話 タルトその苦悩
タルトは独り広間にたたずんでいた。どうやら、シフォンは姉スフレを追って出ていった後のようだ。
嗚呼、折角の休みが・・・妹達の顔を見て癒され様と思っていたのに・・・何でこうなった。
シフォンに嫌われたく無いが為に協力する事に・・・やってしまった・・・本当に私は何をやっているのか。シフォンが大事だからこその反対だったのに・・・
スフレもシフォンも可愛い妹。兄として二人を守る事こそが私の使命だと言うのに・・・何時もそうだ思い知らされる現実を・・・
タルトは悩んでいた。
優秀な二人の妹・・・常に首席だった二人に対しある種の劣等感に苛まれていた。
幼き日のタルトの学院での成績は中の上と言ったところだった。
普通の貴族なら何ら問題の無い成績であったがクレア家それも本家の長男と言う事で周りはそうは見てくれなかった。
『家柄だけの男』と揶揄されていたのだ。
それは肩身の狭い思いをしていたが、そんな事はタルトにはどうでも良い事だった。タルトを本当に苦しめていたのはもっと別の事であった。
クレア家の人間は本家、分家問わず、生まれながらにして守護獣を授かるはずなのだが、タルトにはそれがなかったのだ。
家族は何も言わないが親族は違っていた。陰で無能と呼ばれている事。下賤な母親から生まれてきたからと。それを覆そうとタルトは努力を惜しまなかった・・・。
しかし、現実は甘くはなかった。
同級生に魔力も技量も劣る自分自身に絶望しかけた。
日に日に二人の妹が魔導の才能の片鱗を見せる事で更に追い詰めた。
自分はクレア家の子じゃないんじゃないかと。タルトの心は荒んでいった。
そんなある時、母方の遠縁にあたる人物を父親が連れて来たのだ。
母やシフォンそして自分と同じ黒髪黒眼のその男は訳の分からない事ばかり言う変な男だった。だが、タルトはその男に不快感は感じていなかった。その男の言ってる事は荒唐無稽の事ばかりなのにタルトは何故か信じることができた。
タルトは、男につい話してしまった。
「おじさん・・・僕・・・この家の子じゃないかもしれないんだ・・・」
「お、おじさんって・・・まぁ、君から見たらおじさんかも知れないけど・・・お兄さんって言おうな!で、この家の子じゃないって・・・何を言っているのだ・・・そっくりじゃないか親父さんに。」
「僕がお父さんに???」
「滅茶苦茶そっくりだぞ。」
「嘘だ!!髪色も眼の色も違うし・・・なにより僕には守護獣がいないんだ!」
男はタルトの頭をポンポンと軽く叩くと言った。
「髪の色?眼の色?守護獣がいない?何を言っているんだか・・・私の言ってるのはそう言う事じゃぁない・・・在り様の事を言っているんだ!」
「アリヨウ・・・?何だよそれ意味わかんないよ!」
「わからないよな・・・そうだ、これならどうだ・・・タルト坊ちゃんはスフレちゃんやシフォンちゃんは好きか?」
「そんなのあたりまえだ!」
「良い答えだ。じゃあ・・・二人が誰かに虐められていたらどうする?」
「僕が守る!」
男はニッコリ笑い言う。「それだよ・・・見た目とか才能とかじゃぁ無いんだよ・・・何をしたいのか、何をするのか、どうあるべきなのか・・・それこそが在り様・・・君は今、家族を守ると言った。それは君の親父さんも一緒のはずだ・・・違うと思うかい?」
「・・・ううん・・・思わない。」
「ほらね、そっくりじゃないか。」
「・・・そうなのかなぁ・・・」タルトは釈然としない様子だった。
「くよくよ考えないで前を向いて歩いて行けば良いのさ・・・」
「・・・でも・・・僕には力がないから・・・」
「・・・・力がない事を嘆くよりも、先に君にはやるべき事があるんだよ。力がないならそれを補うモノを見つければいい。見つけられなければ考えればいい。何ができるのか、何ができないのか。どうすればいいのか・・・」
「僕にはわからないよ・・・」
「要は・・・勉強しろってこったぁ・・・知識は武器になる・・・私の言葉じゃあ無いけどね。」
「勉強は嫌いだ・・・」
「それは困ったね・・・力もない、知識もない・・・これじゃ何も守れないな・・・」
「・・・じゃぁ、勉強する・・・」
「君は今、判断した。何ができるかできないかを・・・それで良いんだよ。自分のできる事をしていけば良いさ。」
「・・・うん・・・わかったよ。」
結局、私は何ができると言うのだ・・・シフォンを止める事もできない・・・それどころか協力するとまで言う始末・・・何も変わっていないじゃないか・・・私は・・・
「何を黄昏てるんだタルト坊ちゃんは・・・」唐突に男が声をかけた。
「うわぁああ・・・いきなりどっから湧いたんですか!」
「いやなに、そこの扉から入っただけなんだけど・・・」
「オージェン卿・・・相も変わらずですねあなたは・・・」
「又、悩んでるのか?何時も悩んでいるな君は・・・」
「何時もって・・・もう10年も前の事じゃないですか・・・あなたは気楽でいいですね・・・羨ましいです・・・」
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