第34話 コリーダ=セルシス

 コリーダは、最期の力を振り絞る様に化物に向かって行く。本来なら、動くことも儘ならない状態のはずだった。過度の興奮状態でその痛みを鈍化させていたのだろう、最期の攻撃をしようと、右手を前にかざすコリーダ。その刹那に・・・


 何かが足りない・・・速さ?多さ?鋭さ?それとも・・・・その時、思い浮かぶ一つの言葉。・・・・薄く・・・何で?・・・・そして、到達するある一つの答えに。・・・違う、違ったんだ。足りないんじゃない!それは至極簡単な事だった。手数を意識して、 『多さ』 に固執してしまっていたのだ。形を変えればいい・・・より細くより薄く。


 コリーダの最期に放った魔力弾≪マジックショット≫は、今までのモノとは、違っていた。これまでは、球体の魔力を撃ちだすモノだったのに対し、薄く細い、まるで鋭利な刃物の様な形状の魔力を撃ちだしたのだ。


 それは、化物の放つ鎌鼬をも両断し、本体をもまっぷたつに切り裂いた。地面に落ちた化物はピクピクとまだ動いていたが、既に戦闘不能で程なく絶命した。


 「・・・・有言実行・・・・魔力弾≪マジックショット≫で倒して差し上げましたわ・・・」


 しかし、その声は弱々しく、今にも消えて無くなりそうだった。そして、コリーダは、その場に崩れ落ち、仰向けになって天を仰いだ。薄れゆく意識の中で彼女は、思い出していた。初めてあの子と会った日の事を・・・・



◆◇◆



 セルシス家は、元々はルースレス王国の貴族であった。コリーダの父は、とりわけ優秀ではないが、堅実で実直な人物だった。ある日、彼は貴族同士の権力闘争に巻き込まれた。要領よく立ち回る事が出来れば何の問題は無かったのだろう。しかし、彼は、実直すぎた・・・権力闘争に敗れた一派に加担したとされ、国を追われる事になった。そしてアリスティディス王国に亡命し、最下級とは言え貴族としての待遇が与えられたのだが、要職には就けず一般市民と大差ない生活を強いられる事になったのだ。


 そんな経緯もあり、コリーダは学院入学時、独りぼっちだった。亡命貴族の子と言うレッテルが貼られ、遠巻きに見られる存在だった。そんな中、もう一人、遠巻きに見られる存在がいたのである。


 彼女の名は、シフォン=クレア。何故か、彼女にも誰も近づこうとする者がいなかった。コリーダは、彼女に対して親近感の様なモノを感じていた。だがそれは、大きな勘違いだったと言う事が、それから暫くして知る事になるのだった。


 学校で良くある風景に好きな者同士でペアを作って授業を受けると言う事があるが、コリーダとシフォンは、必ずあぶれ、結局二人は組む事になるのだが、それが何時しか当たり前の様になっていた。必然的に二人の仲は、急速に接近していった。


 そんなある日、何時もは遠巻きに見ている生徒の一人がコリーダに話しかけてきたのである。


 「羨ましいですわコリーダさん。シフォン様と久しくされていて・・・」


 コリーダは、違和感を感じた。同級生に様づけをする事に・・・思わず聞き返してしまうコリーダ。


 「羨ましい?私の事が?それにシフォン様って・・・・」


 「そうか、コリーダさんは知らないのですね。シフォン様がクレア家の御息女なんですよ。」


 「クレア家?そんな有名な家なんですの?」


 「当たり前じゃないですか、クレア家と言ったら、その昔、王族だった。公爵家ですよ。今は代々、宮廷魔導士の長を任される家柄なんですよ。」


 「それじゃ・・・何であなた方は彼女に近づこうとしなかったのですか?」


 「そんなの、畏れ多いし、どう接したらいいか、わからなかったからですわ。」


 コリーダは、勝手に彼女が自分と同じ様な境遇だと思い込んでいたのだ。その認識の間違いを少しだけ反省するコリーダだった。


 そんな名家の家柄なのに、それをひけらかす事もなく、驕る事もない態度。それでいて、どこか冷めた様な表情を浮かべているシフォンを見て、詰まらなそう、寂しそうと言った印象をうけたコリーダだった。そこで彼女は考えた。


 私が何とかしてやろうと。今まではちょっと気になる同級生だったが、並び立つ存在になってやろうと。


 それ以来、コリーダは、シフォンに何かと張り合う様になった。だがそれが、彼女とコリーダの差をあらわにした。魔力の絶対量の差、才能の差。そして努力の差を思い知らされる事になったのだ。


 一緒に組んでいるからこそ分かる自身との差にコリーダは、劣等感を感じる様になったのだが、シフォンが才能に驕る事なく努力する姿を見てしまったコリーダは、自分の努力が努力にアタイしない事を思い知る。コリーダは、思わず聞いてしまった、何でそんなに努力出来るのかと。


 「努力なんてしていませんわ・・・ただ、当たり前の事をしているだけですよ。」


 そう、彼女にとって当たり前の事であって、努力ですら無かった事に衝撃を受けたコリーダは、自分もそれが当たり前になる様に日々の訓練をする様になった。これまで、コリーダの成績は、良くも悪くもなく、平均的な物だった。それが一年後、次席になるまで上がっていた。勿論、首席はシフォンであった。


 思えばその頃から、コリーダは、シフォンに勝負を挑むようになったのだ。そして、その事が周りにも影響を与える事になる。二人の勝負は、良い勝負とは程遠いもので、何時も一方的な展開になるのだが、それを冷ややかに見ていた同級生達だったが、何時しか二人を応援する様になっていた。二人があまりにの真剣に勝負していたからだ。二人と同級生達の関係性が変わったのだ、今まで、遠巻きに見ていた彼等だったが、家柄とか身分関係なく、普通に接する様になっていった。


 シフォンは、どこか嬉しそうに見えた。それを見たコリーダは、少し誇らしげだった。

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