第159話 予想外

トレーニングを終えたみんなと部屋に行き、浴場に行く前に、千歳に貼ってもらったテーピングを剥がそうとしていると、ヨシ君が切り出してくる。


「手伝ってやろうか?」


ニヤッと笑いかけてくるその笑顔に嫌な予感しかしない。


「自分でできます」


はっきりとそう言い切ると、ヨシ君は突然声を上げる。


「智也、凌、抑えろ」


智也君と凌は、返事もしないままに手際良く俺の両腕と両足を抑え、身動きが取れない状態に。


「ちょ! なんで!?」


「一気に行ったほうがいい? ゆっくり行ったほうがいい?」


人の話も聞かず、ヨシ君はニヤニヤ笑いながらそう聞き、重なっている部分を手際よく話し始めた。


「一気に行って! マジで!!」


「OKOK。 すね毛さんとお別れしたか?」


「した! したから一気に!!」


必死に抵抗しながら叫んでいたんだけど、ヨシ君が一気に剥がしてくれるわけもなく…


毛の流れに逆らいながら、ゆっくりとテーピングを剥がし始め、智也君が言い聞かせるように声を上げた。


「奏介! 諦めろ! これはお前の試練だ!!」


「何のだよ!」


痛みにこらえながら叫び続けていると、英雄さんが部屋に入ってきたんだけど、英雄さんはヨシ君に怒鳴り散らすかと思いきや、笑いながら俺たちの事を眺めるだけだった。


すべてのテーピングを剥がし終えた後、無駄に汗をかき、疲れ切ってしまい、ベッドの上でグッタリしていた。


シャワー浴びると右足がピリピリするし、一部はツルツルになってるしで、いいことが全くない。


捻挫の痛みはほとんどなく、時々足をついたときに痛みを感じるだけだったんだけど、叫びすぎたせいか、疲労感だけが半端なかった。


無駄に疲れ切った状態で浴場を後にすると、女風呂から出てきた千歳が切り出してきた。


「シップ貼る?」


「貼る」


「んじゃ夕食の後に部屋来て」


千歳はそう言った後、2階に上がってしまう。


夕食をとった後、少しだけ胸が弾ませながら千歳の部屋に行くと、向かいの部屋のドアが開き、星野が俺を部屋に引きずり込もうとするも、必死にドアを掴んでいた。


必死にドアを掴みながらテーブルの上を見ると、何枚もの反省文が、数行書かれているだけ。


『八つ当たりしたいだけか…』


そう思いながらドアを片手で抑えていると、いきなりドアが開き、千歳が中に入ってきたんだけど、千歳はかなり苛立っているようで、星野の前に立ち、黙って睨み続けていた。


けど、星野は少しも怖気づくことなく、千歳に言い放った。


「私、奏介と付き合ってるから」


「で?」


「付き合ってるから近づくなって言ってんの! 英雄のおまけのくせに、偉そうにしてんじゃねーよ!! 生きてる価値無いんだから、今すぐ死ねよ!!」


星野が怒鳴りつけるように言った途端、俺の手が星野の頬を振りぬき『パーン』という高い音を響かせ、星野は吹き飛んでいた。


「人の命を何だと思ってんの? 生きてる価値がないとか、お前が勝手に決めてんじゃねぇよ」


「…なんでそんな奴かばうのよ!」


「好きだから」


「はぁ? 約束どうすんのよ! 私と『付き合う』って約束したじゃない!!」


「お前が勝手に言ってきただけだろ? 俺はお前と何の約束もしてない」


ハッキリとそう言い切った後、千歳の肩を抱いて向かいの部屋に行き、隣に座る千歳に今まで起きたことを話し始めた。


絶対に、怒って怒鳴り散らすと思っていた千歳は、予想外に眉間にしわを寄せるだけで、怒ることも、怒鳴ることもなく、黙って話を聞くだけだった。


「ホントゴメン。 ウォーターボトルも割られて、ミサンガも、一緒に買いに行った靴紐も切られちった…」


「今履いてるのはどうしたの?」


「買いなおしたよ。 あのシューズ気に入ってるし、全く同じやつ買いなおした。 ミサンガは自分で作った。 ホントごめん」


「…もっと早く言えよばーか」


千歳はそう言いながら、俺の顔に顔を近づけ、そっと唇を重ねてくる。


眩暈がしそうなほど柔らかい唇を感じながら、千歳の小さな体を強く抱きしめていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る