第158話 処置
光君としっかりと握手をした翌朝。
午前中のトレーニングを終え、昼食後には1時間の休憩に。
みんなは昼寝をしていたんだけど、眠ることができず、体育館に行き、一人で縄跳びをしていると、光君が中に入り、切り出してきた。
「休まなくていいのか?」
「はい。 なんか動きたくて…」
「休む時はしっかり休めよ。 トレーナー命令」
光君はそう言いながらにっこりと笑いかける。
トレーニング内容について話していると、宿舎のほうからみんなの足音が聞こえ、ぞろぞろと体育館の中に入ってきたんだけど、星野はかなり不貞腐れ、ベンチに座ってすぐポテチを食べ始めていた。
谷垣さんが星野を注意する姿を、見て見ぬふりをし続け、光君の指導の下、サンドバックを殴っていると、突然、踏み込んだ足が滑り、右足首に激痛が走った。
「だ、大丈夫か!!??」
光君の叫び声と同時に顔をしかめていると、谷垣さんの怒鳴り声が響いてきた。
「体育館で物を食うなって言っただろ!!」
「言われてませ~ん」
谷垣さんと星野が言い合う中、痛みに堪えながら薄目を開けると、目の前にはポテチの袋が風に揺られ、飛ばされていた。
英雄さんは慌てたように駆け寄り、俺の足首を見て切り出してきた。
「捻挫だな。 奏介、中に入ってちーに処置してもらえ。 凌、連れてってやれ」
凌の肩を借りながら中に入り、部屋で休んでいたんだけど、どこを探しても千歳がいないようで、凌は困った表情をしながら部屋に入り、聞いてきた。
「千歳いねぇなぁ… 屋上で洗濯してんのかな?」
「あ~… 朝のロードワーク出てたから風呂かもな…」
俺の言葉を聞いた途端、凌は浴場の方へ向かおうとし、慌てて凌のTシャツをつかんだ。
「覗こうとしてねぇだろうな?」
「奏介君、僕が覗きなんて、そんな事する人間に見えるのかね? 君が怪我をしたから、呼んできてあげようとしてるんだろ? たまたま千歳のいる場所が風呂ってだけであって、覗きなんてそんな如何わしい事をするとでも思っているのかね?」
凌がなぜか偉そうに語り始めた途中でドアがノックされ、凌は背筋をピンと伸ばし直立不動の状態に。
すると、ゆっくりとドアが開き、薫が中に入ってきた。
「奏介君、捻挫しちゃったんだって? 千歳ちゃん、今、お風呂掃除してるから『連れて来い』って言ってるよ」
「わかった」
はっきりとそう言い切った後、薫とがっかりとした表情をする凌の肩を借りて、千歳の待つ浴場に向かっていた。
凌と薫の肩を借りて浴室に行くと、千歳は風呂いすに俺を座らせるなり、バケツの中に俺の足を入れて水を溜め始め、薫と凌に切り出した。
「戻っていいよ。 あとやっとく」
その後、千歳は薫と凌の3人で浴場を後にし、浴場に一人取り残されてしまった。
『あれ? 置いてかれた?』
不思議に思いながら足を冷やしていると、千歳は浴場に戻るなり、バケツの中に氷をダバダバと入れ始めたんだけど、なぜか口には棒付きのアイスを咥えていた。
「…何食ってんの?」
「アイス」
「そっすか…」
「あ」
千歳は『食え』と言わんばかりに、口に咥えていたアイスを俺の口元に差し出してくる。
黙ったままそれを口で受け取ると、千歳は風呂掃除を再開していた。
『自由人…』
アイスを食べながら千歳を眺めていると、千歳は風呂掃除を終え、足が入っていたバケツを外し、タオルで丁寧に拭き始める。
タオルで水滴をふき取った後、千歳はアイスの棒をゴミ箱に投げ入れていた。
千歳に担がれながら脱衣所に行くと、千歳は膝の上に俺の足を乗せ、シップの上からテーピングを巻いてくれた。
黙ったまま、淡々と手慣れた感じで処置をしてくれる千歳を見ていたんだけど、千歳はテーピングを巻いた後、切り出してきた。
「たぶん大丈夫だと思うけど、熱持ってきたら教えて」
「わかった。 いつも思うけど、テーピングの巻き方うまいよな」
「慣れてるからね。 今日のトレーニングは見学だけにしなよ? 動いちゃダメ。 できれば明日も見学だけにした方がいいよ」
「えー… 動きたいんだよなぁ…」
そう言った後、ゆっくりと立ち上がったんだけど、千歳は俺の体を支えるように立ち始める。
「無理しないでよ?」
顔を覗き込むように言われ、胸の奥が締め付けられると同時に、浴場の扉が開き、英雄さんと光君が心配そうに中に入ってきた。
「奏介、大丈夫か?」
「はい。 千歳がガッチガチに固めてくれたんで大丈夫っす」
「そうか。 明後日帰るけど、合宿期間中はマネージャーの仕事手伝ってやれな。 ちー、奏介は動けないから、お前が動いてやれ」
「ふぁ~い」
千歳は気のないような返事をし、俺を体育館に連れて行ってくれたんだけど、リングの上では凌とヨシ君がスパーをしていて、凌はボコボコにされまくっていた。
『動きてぇなぁ…』
そう思っていると、谷垣さんが俺に歩み寄り、切り出してくる。
「悪かったな。 星野は部屋で反省文書かせてる」
「あいつずっとあんな感じだけど、単位どうすんの?」
「普通に考えてみろ。 あの態度で怪我人まで出して、あげられると思うか?」
「じゃあ留年確定?」
「それ以上は言えない。 とにかくゆっくりしてろ」
谷垣さんはそう言った後、英雄さんの元へ駆けていき、俺はベンチに座り、トレーニングをするみんなの事を、羨ましく思いながら眺めていた。
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