第122話 初試合

英雄さんと秀人さんを眺めた後、千歳が会場に入ってきたんだけど、遠く離れた場所にいるせいで、近づくことすらできないでいた。


谷垣さんと坂本さんが真後ろに座った後、第1試合が開始され、東条ジムの女の子の試合が開始されていた。


『千歳と全然違う…』


そう思った瞬間、女の子の右ミドルキックが決まり、東条ジムの女の子が勝利していた。


第3試合を迎えると同時に、待ちに待った千歳がリングに上がったんだけど、ゴングが鳴った直後から、相手は千歳に近づこうとはせず、警戒するように距離をとるばかり。


千歳が大勢を低くしながら、前に踏み込んだ瞬間、相手はガードを挙げていたんだけど、千歳の右腕がボディに突き刺さり、相手は立ち上がることができないでいた。


『すげー… 1撃でレバーに叩き込んだ…』


「さすが… あれは俺でも立てねぇぞ…」


呆然としながら呟くヨシ君に、同意することしかできなかった。



次の試合でも、千歳は機敏に足を使い、様子を窺うように動き回っていたんだけど、決定打になりそうな攻撃はすべてガードし続ける。


一瞬の隙も与えず、ボクシングだけで戦うその姿は、過去に親父と見に行った英雄さんの動きと酷似している。


手に汗を握り、リングの上を見つめていると、千歳はカウンターで左ストレートを放ち勝利。


キックボクシングの試合なのに、キックを使わないまま準決勝に進んでしまい、俺の周囲は静まり返る。


さすがのヨシ君も呆然としているようで、言葉を発することはなかった。



迎えた準決勝戦で、千歳は春香の実姉である『田中忍』との対戦だったんだけど、田中はリングに上がろうとしない。


レフェリーが急かしていたんだけど、田中はなかなかリングに上がろうとせず、千歳はコーナーで田中の事をにらみながら、ジッと待ち続けていた。


しばらく待っていたんだけど、田中はリングに上がろうとせず、会場からざわめく声が聞こえ始める。


「何してんだ?」


ヨシ君の言葉に、首をかしげる事しかできないでいると、田中のセコンドが判定員のもとに行き「レフェリーを変えろ」と怒鳴りつけ始める。


当然、こんなことは受け入れられる訳もなく、追い払われていたんだけど、田中は突然、通路を歩き始めようとしていた。


「ふぁあ!? ふぃふぇんふぁ!!」


千歳の怒鳴り声は、マウスピースのせいで言葉にならない。


「あのバカ…」


ヨシ君は慌てたようにリングへ駆け出し、凌と二人でそれを追いかけた。


千歳と田中が怒鳴り合う中、フェンスギリギリの場所につくと、レフェリーは田中をリングに上げようとし、口論となっていた。


田中はレフェリーを殴りつけた後、千歳に向かって中指を立て、何事もなかったかのように通路の奥に消えていた。


「最悪っすね… あの女…」


嫌悪感むき出しにしながら呟くと、ヨシ君が呆れたように切り出した。


「そういう問題じゃねぇよ。 レフェリー殴ったし、あの態度は永久追放されて、記録自体抹消されるかも」


「そんなやばいんすか?」


「あの審査員の隣にいる人いるだろ? あの人、連盟の会長で、兄貴にキック勧めた人なんだよ。 たぶん、千歳が出るって聞いて、見に来たんだと思うわ。 下手したら訴えられるぞ」


千歳の勝利が告げられ、千歳はそのまま決勝戦の準備を始めていた。


その場で決勝を見ようとしていたんだけど、警備員に注意されてしまい、渋々自分の席に戻ろうとすると、背後から男性の声が聞こえてきた。


「あれ? ヨシ君?」


「あっれ~? 島田会長じゃないですかぁ!! ご無沙汰してます!!」


ヨシ君は『今気づきました』とばかりに声を上げ、連盟の会長である島田さんは嬉しそうに近づいてくる。


「妹さん、強いねぇ。 流石、カズの妹だな」


「俺も相手にしたくないですもん。 乱闘騒ぎになるかと思って飛んできたんですけど、もう大丈夫みたいなんで、あっちの席に戻りますね」


「隣の席空いてるから、そこで見なよ」


島田さんはそう言いながらフェンスを開け、ヨシ君は中に入ったと思ったら、当たり前のようにフェンスを閉め、最前列で試合を見始める。


「ヨシ君、マジ汚ぇ…」


凌と二人で文句を言いながら自分の席に戻り、多い場所からリングの上を眺めていた。

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