第55話 初対面

千尋に怒鳴られて以降、『千尋は本当にちーなのか?』という疑問が膨れ上がっていた。


相変わらず、千尋とは毎日会い、夜には電話がかかってきたんだけど、今までは聞き流していた話も、注意しながら聞くように。


けど、千尋はドラマや映画の話ばかりで、肝心なことは何一つ話そうとしない。


疑問を抱きながら毎日を過ごし、またしても広瀬に行けなくなってしまった。



そんなある日のこと。


朝から縄跳びをしていると、千尋が目の前に現れ、手と足を止めていた。


「何?」


「ケーキ食べに行こ」


「減量中だから」


「行こうよ…」


千尋はそう言いながら目にいっぱいの涙を浮かべる。


「わーったよ」


ため息交じりにそう言い放ち、自宅へ駆け上がった。


軽くシャワーを浴びていると、親父が切り出してくる。


「家の前に誰かいるぞ? 彼女か?」


「すぐ出るからいいよ」


「早くしてやれよ」


親父の言葉にうんざりしながら、浴室を後にしていた。



千尋とケーキ屋に行ったんだけど、かなり行列ができていて、それを見ただけでうんざりしてしまう。


『ケーキ一つに並ぶの? まじかよ…』


行列の長さにうんざりしていると、店の横からバイクが駆け抜け、どこかへ向かっていった。


『バイクか… 免許取りに行きてぇけど、千尋が毎日これじゃ、事故るのが目に見えてるしな…』


そう思いながらボーっとしていると、さっきのバイクは後ろに誰かを乗せ、店の横に入っていった。


何も気にせず、千尋の話を聞き流していると、徐々に行列が短くなり、席に着いたのが1時間後。


千尋は当たり前のように、アイスフルーツティーとケーキを注文し、俺はアイスコーヒーだけ。


「食べないの?」


「減量中」


ため息交じりに行った後「げ」っという声が聞こえ、視線を向けると、コックコートに身を包んだ中田が立ち止まっている。


思わず固まってしまうと、中田は仕切り直したように通り過ぎた直後、千尋のケーキと飲み物が運ばれてきた。


千尋はケーキをフォークにさし「あーん」と言いながら口元に持ってくる。


「減量中」と言っても、千尋はフォークを引っ込めることなく、口物から離そうともしない。


仕方なく、一口だけ口に入れた後、「もういい」とだけ告げ、アイスコーヒーを飲んでいた。


千尋が食べ終えると同時に席を立ち、店を後にしたんだけど、千尋は「おいしかったね」と言いながら、腕を絡ませてくる。


『減量中じゃなければな』


聞き入れてくれない言葉を飲み込んでいると、いきなり背後から「ドーン」という声と同時に突き飛ばされ、慌てて振り返るとヨシ君が笑顔で立っていた。


「よお。 久々じゃん」


突然現れたヨシ君に、驚きのあまり言葉が出ないでいると、千尋が切り出してくる。


「友達?」


「ん? これが例の彼女?」


俺が答える前にヨシ君が聞いてきたんだけど、二人は初対面のような表情をしているばかり。


「え? ちょっと待って。 妹じゃ…」


「は? うちの妹、こんなに髪長くないよ? もっと背が低いし、もっと細いし筋肉質。 やっべ! 親父に頼まれて、プリン取りに来たんだ。 じゃな!」


ヨシ君はそう言った後、店の中に飛び込んでしまい、立ち尽くすことしかできなかった。


「今の友達?」


千尋の言葉でハッと我に返り、黙ったまま急ぎ足で自宅に向かっていた。



妹なのに初対面?


兄貴なのに初対面?


今まで暴力を振るわれて、大怪我までしたのに初対面?


家にまで押しかけて、暴力を振るってたのに初対面?


とぼけてるだけ?


んな訳ないじゃん…


大体、本当に暴力を振るわれてたら、千尋はもっと怯えていいはずだし、逃げ出してもおかしくないだろ?



自分の中に湧いて出た疑問と答えに、思わず歩く速度を速めていた。

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