第29話 評判
「カズ君、今日この後、飲みに行かない」
商品がなくなり、かなり早い時間に閉店作業を終えた後、俊に切り出され飲みに行こうと思ったんだけど、バイクで来ているせいですぐには行けず。
「うちにバイク止めてくるな」
「あ、後ろ乗っていい? ついでに、ジムやってたら見たい」
「ん。 いいよ」
そう言った後、急いで着替え、俊を後ろに乗せて走り出した。
自宅に着くと、ジムの電気がまだついている。
バイクを降りた後、二人でジムのほうへ行くと、吉野さんが1階から出てきた。
「まだやってるんすか?」
「ヨシと桜がね。 桜、仕事で嫌なことあったらしくて、サンドバックに八つ当たりしてるよ。 ヨシは英雄さんの折檻受けてる。 あいつは本当に成長しないねぇ…」
「…今度は何やらかしたんすか?」
「英雄さんの芋焼酎、勝手に飲んだんだってさ。 空になったから、水入れておいたんだと」
吹き出す俊の横で、呆れかえることしかできなかった。
「今日でキックの選手が辞めちゃったし、しばらくちーちゃんは『ボクシングだけにする』って言ってたなぁ…。 俺も昼間の主婦層だけ見ることになったから、来るときは教えてな」
吉野さんに近況を教えてもらった後に別れ、二人でジムの中に入ると、桜はベンチに座ってリングを眺め、親父とヨシはリング上で殴り合っている。
俊は「すげー! ちょっと感動!!」と声を上げ、目を輝かせながら周囲を見回していた。
「立ちやがれやぁ!!」
親父の怒鳴り声の後、俊は直立不動のまま動かなくなってしまい、桜はゲラゲラ笑っていた。
ヨシは肩で息をしながら立ち上がり、ファイティングポーズをとって親父に飛び掛かるも、あっけなく右ストレートをを食らってしまい、リングの上で大の字に。
『終わったな』
そう思っていると、親父はやっと俺に気が付き、切り出してきた。
「カズのウォッカも飲まれてたぞ?」
「はぁ!? お前、あれ高ぇんだぞ?」
「ちょっと飲んだら美味くて、止まんなくなっちゃった系? 代わりに水入れておいたから大丈夫!!」
「…ヨシ、今度の休み、予定空けとけよ? ガチで根性叩き直してやる」
ヨシの顔はみるみる青ざめ、桜はゲラゲラ笑っていた。
俊とジムを後にしようとすると、桜が「どっか行くん?」と切り出してきた。
「飲み行く」
「私も行くから待って」
桜は慌てて1階に向かい、俊に切り出した。
「待ってる間、暇だからサンドバック殴ってみる?」
「え? いいの?」
「親父、オーナーの息子さんにサンドバック殴らせてもいいよな?」
「オーナー? いつも息子がお世話になってます。 ここにあるもので良ければ、好きなだけ使ってください」
さっきまで吠えまくっていた親父は、急に態度を一変させ、俊に向かってヘコヘコしまくっていた。
俊はすぐにサンドバックに向かい、軽く殴り始めたんだけど、一発殴った後、歓喜の声を上げていた。
「やべぇ! 初サンドバック、めっちゃ楽しい!!」
『俺にもあんな時代があったのかなぁ…』
そう思いながら楽しそうにサンドバックを殴る俊を眺めていると、ヨシが隣に座り切り出してきた。
「そういやさ、兄貴の店、ネットの口コミですげー評判になってるよ?」
「マジで?」
「うん。 前より美味いって。 甘さ控えめだから、何個でも食えるって書いてあった。 俺もこの前、彼女がホールで買ってきてさ、評判通り美味くて、一人でほとんど食って怒られた」
『あほだ… つーか居たんだ…』
そう思いながらも、楽しそうにサンドバックを殴る俊を見ながら、桜のことを待っていた。
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