第28話 虚しさ
数日後。
千尋と映画に行ったんだけど、千尋は当たり前のように俺の分のチケットまで買いにいってしまい、恋愛映画から逃げられない状態に。
席に着き、映画が始まったんだけど、開始5分もしないうちに眠ってしまい、気が付いたらエンドロールが流れている。
主人公が誰なのかもわからないまま、ふと千尋のほうを見ると、千尋は尋常じゃないくらいに号泣していた。
『実は泣き虫?』
そんな風に思いながら映画を見終え、少しフラフラと歩いていたんだけど、千尋は当たり前のように俺の腕に腕を絡ませ、強引にラブホに連れていかれてしまった。
「ちょっと待った! これはやばいって!!」
「付き合ってるんだからやばくないでしょ?」
満面の笑みでそう告げてくる千尋に、不安ばかりが募っていた。
部屋に入ってからも、かなり戸惑っていたんだけど、千尋は「全部任せて」と言い、俺に覆いかぶさってくる。
『本当にいいのか?』
不安が大きくなる中、千尋に身を委ねていた。
数日後。
この日は広瀬ジム内で紅白戦が行われていたんだけど、俺もメンバーに加えられ、対戦相手は達樹だった。
2分1ラウンドの試合だったんだけど、達樹のパンチが想像以上に重く、ジャブを顎に受けただけで倒れこみ、天井がぐるぐる回る状態に。
『なんだこれ? 畠山君のパンチより断然重いし、たったの1発だけでこれ? VIPのパンチってこんななの?』
不思議に思いながらゆっくり立ち上がり、ベンチに座らされていた。
帰り道、達樹に勝てないことが悔しくて、千尋に切り出した。
「しばらくトレーニングに専念したいから、ライン減らしてくれないかな? 今のままじゃ、プロになれないと思う」
「あのさ、私の前でボクシングの話、しないでくれるかな? 何年か前に試合で大怪我しちゃって、それがトラウマなんだよね…」
「でも、英雄さんは元プロボクサーだろ? 前まで広瀬でトレーナーしてたって…」
「今は違うよ。 お父さんも辞めちゃってからボクシングの話はしないし、正直、聞きたくないんだよね…」
ファイティングポーズをとる英雄さんはもう見れない…
あんなにかっこよくて、優しくて、ずっと憧れていた英雄さんも
かっこ良すぎるくらいかっこよかった千尋も、もういないんだ。
千尋の言葉は、そう言い切っているように感じ、思わず足を止めて呆然としてしまった。
「つーかさ、なんでいつもジムに居んの? ボクシングが嫌なら来なきゃいいじゃん」
「奏介に会いたいからだよ。 奏介に会いたいから、我慢して、頑張って行ってるの」
千尋の言葉に何も言えなくなってしまい、がっかりと肩の力を落とすことしかできなかった。
その日以降、記憶を振り切るようにロードワークに出たり、縄跳びをしたりと、トレーニングに励み、家ではシャドウボクシングをするようになったんだけど、千尋の電話で中断する始末。
バンテージの巻き方も必死に練習し、自分で巻くことに慣れた頃。
週末に行われた部活の新人戦では、まぐれパンチがクリーンヒットし、見事優勝できたんだけど、この頃から、広瀬で隔週末に行われていた紅白戦自体が中止され、達樹には負けっぱなしの状態に。
達樹に再戦を申し込んだんだけど、達樹は全く相手にしてくれない。
相手にされないことに、悔しさばかりが募っていたんだけど、千尋は嬉しそうに「慰めてあげる」と言い、広瀬ジム内にある救護室で体を重ね、虚しさばかりが膨らんでいた。
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