第39話
ノートを閉じた紗雪の目から、とめどなく涙が溢れ出ていた。
太一は何が書かれているのか見ていない。でも、何となく太一にもわかる気がした。
目の前の紗雪を見れば、それはとても簡単なことだった。
「紗雪は今までいろんな感情を捨ててきたんだと思う。でも、もう捨てることはないんだ。嬉しい時に笑って、悲しい時には泣いてほしい。いつも日陰に一人でいる紗雪を、俺はもう見たくない。だから、これからは暖かい場所に思いっきり飛び込んでほしい」
太一は紗雪に視線を向けた。紗雪の瞳がキラキラと輝いているのがわかる。
「私は……やり直したい。今の自分を捨てて、一から……一からやり直したい」
紗雪の力強い発言に、太一は何度も頷いた。
「だったら、これからのことを考えよう。今までクラスメイトが思っている紗雪の印象は、正直最悪だと思う。でも、そんな印象はいくらでも変えられる。時間はかかるかもしれない。だけど今からでも遅くない。変わろうとする努力は、未来を変えるためには必要なことだから」
太一の言葉に紗雪は何度も頷いた。
静寂に包まれた空間が太一と紗雪を包み込む。空には未だにベテルギウスが綺麗な輝きを放っている。
多くの天文学者は言っていた。ベテルギウスの超新星爆発の明るさは、満月よりも明るくなる程度だと。しかし実際は違った。ベテルギウスは、太陽に匹敵するような明るさで今もなお輝いている。この明るさを予想していた人は、誰もいなかった。今までに起こった超新星爆発を元に算出した予測データは、ベテルギウスの前では使い物にならなかったのだ。
科学には未知の可能性が秘められている。それは当然、ボンドにも言えることだと思う。
ボンドによって不倫は減少して、離婚率も下がった。その分、幸せになっている人は確実に増えている。それはとても良いことだと太一は思っている。
でも、ボンドで恋愛の全てが決まることは絶対にない。そう強く太一が思えるのも、科学では絶対に導き出せない答えがあるから。
そう気づかせてくれた存在が、太一の隣にいるから。
「あのさ、改めていうのもなんだけど……紗雪に言いたいことがあるんだ」
真っ直ぐな視線を紗雪へと向ける。
誰かを守りたいと思う気持ち。誰かを愛しく思う気持ち。その温かい気持ちは、ボンドによって左右されることは決してない。
だからこそ太一は思う。
ボンドが示すのは奇跡だとか運命だとか、そう言った具体的に言い表せない感情に対する答えなのではないかと。
心の底から結ばれる。そして幸せになる。そんな目に見えない感情の答えがボンドにあるのなら。
これから太一は違う答えを求めていく。だって今太一が紗雪に抱いている気持ちは、ボンドでは決して表せないものなのだから。
その表せない答えを見つける為にも、太一は紗雪に伝えたい。
一人から二人になったこの世界で、二人にしかわからない答えを見つけるために。
「俺と付き合ってください」
bond~そして僕らは二人になった~ 冬水涙 @fuyumi
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