第35話 中華街への案内人

 ガッツリシフトに入ったので、龍と会う回数は減ったが、それでもお互いの休みがあえば二人で遊びに行った。一度だけ、レストランにパンクな女と一緒に飯を食いに来たこともあった。ドリンクのオーダーはイタリア語で通すという自己満足なマニュアルがあるので、私が中卒の頭脳をフルに使って、なんとか龍の座った卓番とオーダーを唱えると、


「太郎イタリア語喋れるんや。すげー」と笑った。


 前までは、休みの日に会うとなると、龍と取り巻きも交えて飲みに行くことが多かったが、パンクな女と付き合いだしてから、夜あまり出歩かなくなった龍にあわせて、明るい内にブラブラするようになった。


 龍はギャンブルをやらない。酒にも女にも飽きていた。おまけに私と彼には共通の趣味もない。なので会うと、まずやることを探すところから始まった。

 ある日、「どうする?」という龍に、「楽しそうなヤツに着いて行けば、楽しいところに行くんじゃないか」と提案したことがある。新宿駅で周りを見渡し、ニヤつきながら歩くサラリーマンを見つけて、「あいつだ」ということで意見が一致した。


 凄いもので、ニヤつくサラリーマンは、私と龍のことを横浜中華街へ連れて行ってくれた。

「中華街で一番旨い肉まんを探そう」と龍が言いだし、二人で肉まん縛りで食べ歩くことにした。どういうタイプの仲の良さか分からないが、「肉まんを丸々食べたらすぐに腹が膨れるから、半分に分けて食べよう」という龍の提案にしたがって、ひとつの肉まんを割って二人で食べた。これなら倍の店舗回れるので、一番旨い肉まんにたどり着く可能性は上がるが、傍から見れば私と龍はゲイのカップルに見えたに違いない。


 中華街の肉まんはデカい。コンビニの倍ぐらいある肉まんは、半分ずつに分け合ったところで、三件も回ると腹は十分に膨れた。「正直肉まんはもういいかな」という雰囲気になったが、そこで行列の出来ている店を見つけてしまった。


「こんだけ人が並んでるのだから、ここが一番旨いに違いない」ということになり並んだ店は、冷凍の肉まんを専門に扱う持ち帰りの店だった。龍はせっかく並んだのだからと、パンクにお土産として一箱買った。食べていないが、二人でそこを一番旨い肉まん屋に認定した。


 一番旨い肉まんを見つけるという目的を達成したあとは、買う気のないお土産品の帽子を被って写真を撮り、店員に怒られたりしながら、中華街を冷やかし歩いた。


「休憩がてら、座ってデザートでも食ってから東京に帰るか」ということになり入った店で、どういう分けか、一族で食事が出来そうな広いテーブルに通された。私と龍は対面に座り、回転するテーブルを使い、ごま団子と杏仁豆腐をお互いに譲り合いながら食べた。


 ウェイターの仕事はクソで、ゲストハウスでの生活は快適とはいえなかったが、彼のおかげで、たまにそういう休日を過ごせたので、東京暮らしも悪いもんではなかった。

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