第27話 夕飯時のリビング

 私が脳みそ風コンビーフリゾットを自炊し食べている時にリビングに誰がいたか覚えてない。たぶん高田はいた。リビングにパソコンとプリンターを置いて、いつもポチポチやっていた。有権者にアピールするのに街頭演説とアメブロだけでは足りないので、自身のサイトを作っていると言っていた。選挙活動を手伝ってくれるボランティアと、衆議院選に立候補するための委託金を今でいうクラウドファンディング的な手法で集めようとしていて、HPが出来上がらないことには、先へ進まないそうだ。ちなみに街頭演説の時には、ギョロ目の斉藤が拾ってはきたが、買い手が付かなかったアニメのポスターを丸めて拡声器代わりに使っていた。


 共有部分に私物を長時間置くことは禁止されていたので、高田がリビングの一角を政治事務所代わりにしているのは違反だったが、彼の言い分では、本当はワンフロア丸々自分のものなのだそうだ。四国から出てくる前に、ネットでワンルームマンションを探して、ここを見つけた。その時はバストイレつきで、広さは三十八平方メートル。共益費込みの格安物件として乗っていた。だから契約したが、いざ来てみると、ゲストハウスだった。「自分は騙された」と言っていた。


 ビギンは、「ふざけんなゲストハウスって書いてるだろ」

 高田は、「元々はゲストハウスとして使っていたが、今は普通の賃貸として出していると読めるようにミスリードしていた」という言い分で話し合いは平行線を辿り、決着は付いていなかった。

 ビギンが同じようなバカが来ないように、より分かりやすくサイトを作り直すと、高田は、「非があると自覚してるからサイトを作り替えた」と自分の正当性を主張する材料にした。


 私が見たゲストハウスのサイトは、すでに作り直された後のもので、実際のところどうなのか分からないが、高田は他に行く場所がなく、ビギンは追い出したいが、面倒くさいヤツなので手を焼いていた。私が入居していた期間は冷戦状態だった。


 高田の他にも、坊主の女、中尾もよくリビングに居た。自炊している所は見たことがない。単純に人がいる場所が好きなんだろう。声がデカくて社交性があった。彼女のようなタイプは団体の中で中心になる。

 家出野郎の仰木と毛の固い村田、サラリーマンの石田、ゴミを転売して生活しているギョロ目の斉藤は自炊のグループを作っていた。月に一度、仰木を除く三人が金を出し合って一ヶ月分の食費を確保する。仰木は金を出せない代わりに、買い出しと調理の係をしていた。夕飯時ならこの面子が四階にいる可能性は高い。

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