第24話 二階に住む人たち
ゲストハウスにたどり着いて、もう一度寝直すと、次は朝と昼の間ぐらいに目を覚ました。ゲストハウスに住んでいたヤツらのことは、よく覚えているが、誰と最初に顔を合わせたかまでは記憶にない。
起きて、たぶんタバコを吸いに行ったので、もしかしたらヘビースモーカーだった仰木かも知れない。
仰木はヘビースモーカーなのにまだ十代で、栃木だか群馬だか関東の田舎から、親に無断で東京に出てきていた。いつも黒のニット帽を被っていた。高校の途中まで野球をやっていたらしくて、元野球部に多い、真面目じゃないが不良というほどでもなく、今どきでもチャラくもないが、一応流行は気にしているヤツだった。
タバコを吸って、仰木に自己紹介したとして、その次はたぶん缶コーヒーを買いに行って、飲みながら二本目を吸って、シャワーを浴びたと思う。五階にあるシャワールームは、大きめの脱衣所があって、バスタブも付いている普通の風呂場だったが、長時間の占領に繋がるのと、たぶん掃除が面倒くさいからバスタブの使用は禁止だった。タイル張りで少し古くさかった。
シャンプーとかボディーソープの備え付けはなくて、各自自分のものを使うことになっていたが、用意していなかったので、一発目のシャワーの時は誰かが置いていたやつを勝手に使った。
五階に上がるには、四階のリビングを通らなければいけない作りになっていた。大体誰かは居たので、そこでも人と会話したはずだ。「高田 実」という五十過ぎで、政治家志望のフリーターが住んでいた。よくリビングで作業をしていたので、高田と顔を合わせたのがこの時かも知れない。愛媛ではないが、私と同じ四国出身だった。東京で四国出身者と会うと、それだけで親近感が湧く。高田は百五十歳まで生きると本気で言っている、かなりヤバい奴で、みんなからは嫌われていたが、私はある種の好感を持っていた。
仰木と高田のついでに、私がゲストハウスに入った時に居た連中のことを書いておこう。二階の女性専用階には、坊主頭で、靴紐でなく子供が使うような、なわとびの縄で結んだコンバースを履いた中尾という女が居た。ガリ勉ぽい眼鏡をかけていて、パンクというよりは変わり者といった風体だった。アメリカに住んでいたことがあるらしく、英語が喋れる代わりに、海外の価値観に染まった独特の鼻につく感があった。それと、チヨという二十歳の丸っこい韓国人がいた。チヨはライブハウスでバイトしていて、自身もアコースティックギターを練習していた。甘えたっぽい振る舞いをすることがあって、あともう少し見た目が良ければモテたと思う。もう一人、メイド喫茶で働く人が住んでいると聞いたが、中尾やチヨほど出現率が高くなく、いつの間にか退去していたようで、その姿を見かけることはなかった。
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