第22話 終電の終点

 龍とバンドメンバーと、何人か合流したホスト連中と打ち上げで居酒屋に行った。龍の周りにいる人間に共通しているのは、みんなバカだが人が良かった。


 バンドでキーボードを担当していたトモハルは小柄で可愛い顔で、なおかつ喋りも達者だったので、ホストを始めた当初は順調に売れたが、ストレスでパニック障害と過食になり激太りして、今ではさっぱり客はつかなかった。それでも陽気で男からは好かれた。


 ドラムのミカミは女の子のような綺麗な顔をしていたが、そのわりにモテなかった。男前なのにモテない人間というのは、性格がメチャクチャ悪いか、メチャクチャ良い奴かどちらかで、ミカミは間違いなくメチャクチャに良い奴だった。その証拠に、初めて会った時に、私のことを、「華がありますね」と言ってくれた。後にも先にも華があると言われたのは、その時だけだ。


 ベースのツカサは、先輩の車に乗せてもらって高速を走っている時に、尿意をもようしたが、「次のサービスエリアで止まってくれ」と言えなくて、限界を何度も超えるまで我慢した結果、トイレにいってもションベンが出なくなるという体質の変異を経験したほど気を使う性格で、ギターのゴウは、「ちんちいん」という言葉をよく使う純粋なバカだった。


 バンドのメンバー以外では、役者を目指して九州から無計画に出てきたが、金がないので、日払いで寮が付いているホストで働くことにしたショウイチ。彼は仲間の誕生日に、一晩掛けてまったく似ていない似顔絵を描いてプレゼントし、喜ばれないというのを繰り返していた。


 ナガノは大学までは将来教員になろうと思って真面目に勉強したが、在学中に、「俺が教員になったら、絶対に性犯罪を起こす」と気づいて、ドロップアウトし夜の世界に入った。不真面目で真面目な憎めない男だった。


 それと、「ングゥ」という日本人ならまずない、「ン」から始まる名前のベトナム人がいた。


 賑やかで楽しかったので当然酔った。終電に合わせて解散した。龍が客からもらった花束を、さらに私にくれたので、邪魔だが捨てるのも気が引け持って帰ることにした。


 新宿駅は線路がいっぱいあるので、酔っ払って面倒くさくなった私が、適当に電車に乗ろうとしているのをベースのツカサが見つけて、

「どこ行くつもりですか!? 秋葉原行くならあっちですよ!」と手を引いて、目的の電車に放り込んでくれた。


 東京の電車はいつでも込んでいるものと思っていたが、終電はガラガラだった。扉の脇の席に座って、手すりに身を持たせ掛けた。

 そのまま寝てしまい、駅員に、

「起きて下さい! 終点ですよ!」と体を揺すられて目を覚ました。駅員は私が起きたのを確認すると、次の眠り人を起こしに車内を移動した。駅員の容赦のない体の揺すりかたを見て、「終電の終点ってこんな感じなんや」と少し感心した。

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