第19話 NEWDAYS
翌日昼前に秋葉原のコインロッカーに肩掛け以外の荷物を放り込み、フランスを連想させるパン屋のイートインで格好つけてフレンチトーストとなんか適当なパンをほかに二つぐらい食べた。朝食か昼食か良く分からない量と時間だったが、そもそも日雇い派遣を辞めてからは、お腹が空くか誰かに誘われたら食べるというリズムだったので、何食かの概念が失われつつあった。
駅前で目立つ建物だったラジオ会館に突っ込んで行ったりしながら、適当に時間を潰して、昼過ぎにバックパッカーズゲストハウスの人に待ち合わせ場所として指定された、「NEWDAYS」という他では見かけた記憶のない、赤とオレンジ色の看板のコンビニ前で落ち合った。
待っていた男は背が高く、ハンチングを被り、花柄の開襟シャツを着て、ポケットの部分が和柄になっているジーンズを履いていた。格好のわりには威圧感がなく、親しみ安そうな雰囲気が出ていた。
口頭では聞き取れなかったが、渡してくれた名刺に明らかに沖縄系の名字が書かれていたので、「それでこの人はビギンみたいな格好をしているのだな」とひとり合点した。
男の後に着いて、「大人のデパート」と書いた看板を掲げているアダルト用品屋のビルを、「そもそもデパートは大人が行くところだろ」と思いながら曲がり、警察署のある大きな通りを進んだ。中央通りまで出て、万世橋を渡ると、牛のイラストの横に、どういうつもりで選んだのか分からないフォントで、「万世」と書いた赤色の看板を乗せているせいで、重厚で高級感のある外観を台無しにしているビルがある。その脇を入って行くと、いくらも進まないところに、「秋葉原バックパッカーズ・ゲストハウス」はあった。集合ポストに、「秋葉原バックパッカーズ・ゲストハウス○F」という紙が貼り付けられているだけで、見た目はただの汚い雑居ビルだった。
建物の外で、中谷さんという、身長も体重も両方ある巨漢を紹介された。彼がビギンから引き継いで中を案内してくれた。大男というのは大抵そうだが、中谷さんも膝が悪く、「すいません。痛めてるもので」と言いながら、足を引きずって階段を上った。私より年下に見えたので、
「若いのに大変ですね」と返すと、彼は、
「若くないですよ。僕はもう三十四ですよ」と答えた。
いくらデブは肌つやがいいとはいえ、自分より六つ年下と言われればシックリきそうなこの男が、六つ年上というのにはビックリした。見た目はイカツイがかなり丁寧な優しい喋り方をする男だった。
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