第17話 取り巻きと金
帰りに五反田のマクドナルドに寄った。牛丼を食べてからそんなに経っていなかったので、コーヒーとアップルパイでも注文したんだと思う。店の中でデカい声で喋ってるヤツが居た。
「俺たちは、今やべぇ状況に置かれてんの」
二十代の三人組で、リーダー格であろう男が、今自分たちがどれだけヤバい状況か他の二人に分からせようとしていた。どうやら誰かに見つかったら殺されるらしい。
「だから、ぜってぇ何が何でも逃げないといけないの。分かるか」キャップを被った、ヤクザにも不良にも見えないその辺に居る若者たちだった。話を聞いている二人は、分かっているのか、いないのか、ずっと、「はぁ」としか答えていなかった。リーダー格はかなりバカそうだったが、よく通るいい声をしていた。それをBGM代わりに、ブログを更新して、彼女にメールを送った。それと日記ともいえないメモ程度のことを、持ち歩いていた小さなノートに書いた。
そうしている内に、「何してんの?」と龍から電話が掛かって来た。ホストクラブの営業が終わるか終わらないかぐらいの時間だった。ご飯を食べに行こうという誘いだった。
私が出る時もまだ、「俺らはいま探されてるわけ」と、三人組はポテトを食いながら同じ話を続けていた。こいつらは絶対すぐ見つかるだろうなと思いながらも、なんとなく憎めなくて、何をして誰から追われてるのか知らないが、無事でいて欲しいなと思った。
新宿に戻って、そんなに腹は空いていないが、龍とラーメンを食べに行った。私の寝泊まりする場所を気にしていたので、当面ネットカフェに泊って、しばらくすればゲストハウスに移るつもりだと計画を説明した。五反田で面接を受けてきたことを話すと、
「東京で先に金を払えっていうのは信用しない方が良いよ」とのんびりとした田舎者気質の私を心配した。
「そんなことしなくても、俺と一緒に働けばいいやん」とホストなら日払いもあるし、寮もあると説明してくれる龍に、
「顔がホストに向いていない」と返すと、それで乗り気ではないと察して、
「まあ、確かに。人に勧めるほどいい仕事でもないしな」と、すんなりと引いた。
「とりあえず、住む場所は早く確保した方がいいから、これで先にゲストハウスに入れ」と、彼は財布から金を出した。今まで散々、飯も酒も、交通費も奢ってもらったが、こっちの都合で金を融通してもらったことはなかった。取り巻きの中で彼に金を借りたことのない人間は珍しかった。なにか関係が崩れるような気がして、私は渋い顔をした。それを見て龍は、
「え、足りない?」と不安気な表情をした。
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