第14話 職と住

 一〇〇均で履歴書を買って、その辺にある無料の求人誌を何冊か探して、覚えてないが当時の私の行動を考えるとドトールかマクドナルドのどちらかへ入った。そこで求人誌の中から短期でもOKなところを探してページを折っていった。思っていたより短期でもいいという所は少なかった。日雇い派遣の求人は何社も大きなスペースを割いて載っていたが、愛媛でやったことと同じことをする気にはなれなかったので無視した。


 ピックアップした短期の仕事に共通して問題があった。どこも給料の支払いが一ヶ月分まとめてだった。薄くなった封筒の中身は、私の見立てでは四万か五万だった。まだ中を覗いていなかった。この状況で確認するのは勇気がいる。いつか確認しなければいけないが、今はまだ、勇気を振り絞ってまで、現実と向き合う必要はないように思えた。


 日払いか、最悪でも週払いじゃないと給料を手にするまでに金が尽きる。どうしたもんかと思いながら、とりあえず履歴書を何枚か書いた。住所は龍の家のを勝手に書き込んで、志望動機と、趣味特技の欄は、応募先に合わせて記入しようと空欄にしておいた。随分前に撮った証明写真を一枚だけ持ってきていた。


 履歴書を書いただけで一仕事したような気になって店を出たが、まだなにも決まっていなかった。とりあえず街をフラフラした。私は運命に甘やかされて生きてきたので、今までもフラフラしていれば、何とかなってきた。馴染みのない方向へ向って歩こうと思い、歌舞伎町とは反対側の代々木に向って歩いた。「代々木ゼミナール」の看板も東京タワーも、私からすれば同格のランドマークだった。


 歩いている途中にポケットティッシュをもらった。ティッシュには、「ティッシュを配るバイトの求人」が載っていた。これを見て、私がティッシュを配るバイトを始めたとしても、延々にティッシュを配るヤツが増えるだけで、それが何になるのか分からなかったが、日払いだった。


 その日の内に求人に書かれた番号に電話をし、翌日五反田で面接ということになった。その日は荷物を取りに戻った新宿でネットカフェに泊まった。愛媛のネットカフェよりもボロくて割高だった。

 彼女とメールのやり取りをして、シャワーを浴びて、エロサイトを見て、翌日のために五反田のマップをチェックした。そして、四ヶ月間の拠点を探した。

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