第十一章

試験開始

「いよいよだな」


 ダーシャは眼前に広がる森のダンジョンを眺めて言った。

 今日は試験当日。ポセイドンの4人は標的であるクラーケンドラゴンが潜むダンジョンの入り口に立っていた。

 入り口に立つだけでそこが普通の森ではない事が伝わってくる。

 真っ直ぐではなく、ぐにゃぐにゃと曲がった不気味な形の樹木が群生しており、地面は所々ぬかるんでいて、紫色の霧が充満している。

 森全体がまるで異次元を思わせる異様な雰囲気を放っていた。


「皆、準備はいい?」


 ウォリー達はそれぞれ顔を見合わせる。

 決意を込めた目で互いに頷き合うと、彼らは森の中へ足を踏み入れた。


 霧で満ちた森の中は、見通しが悪い。

 時々、動物なのかモンスターなのか、何かの鳴き声が響いて聞こえてくる。

 ウォリー達は警戒しながら慎重に進んでいった。


「みんな! 上!」


 危機に真っ先に気付いたハナが声をあげた。

 直後に頭上から巨大なコウモリのモンスターが5体飛びかかってきた。

 ハナが魔法を飛ばし、2体を撃ち落とす。

 続いてさらに2体をウォリーが剣で斬り倒した。

 残る1体がダーシャに向かっていく。しかし、彼女は黒炎を出さずにただ立っているだけだった。

 コウモリのモンスターがダーシャの目の前で壁にぶつかり弾かれる。リリの防壁魔法だ。

 体勢を崩したモンスターをウォリーが斬り、息の根を止めた。


 敵の全滅を確認し、再びウォリー達は歩き始めた。

 先程ダーシャが攻撃をしなかったのは事前に決めていた作戦だった。

 クラーケンドラゴンとの戦いではダーシャの飛行能力が肝となる。

 しかし彼女のスキルは魔力消費が激しい。

 標的に出会うまではダーシャは極力魔力の消費を抑えて、他の3人で彼女を守りつつ進む事にしていた。



 襲い来るモンスターを倒しつつ進んでいくウォリー達。

 やがてウォリーはある異変に気がついた。

 周囲がやけに静かになっている。

 先程まであちこちで聞こえていたモンスターの鳴き声や動く音が一切しなくなっている。

 不気味さを感じつつもさらに奥へ進むと、広い空間に出た。

 霧のせいではっきりとは見えないが、その広く空いた空間の中央に巨大な岩のようなものが見える。

 ウォリー達が慎重に近づくと、その岩のような影がピクリと動いた。

 直後、そこから数本の触手が飛び出てくる。岩のように見えたのは巨大なモンスターだった。

 太い丸太のような4本の脚によってその巨体が持ち上がり、光る2つの目がウォリー達を見下ろした。

 モンスターの顔のシルエットは左右非対称。右片方には稲妻のような鋭い角が生え、左片方の角は欠けている。

 ウォリー達の標的、クラーケンドラゴンだ。


「皆! 作戦通り行こう!」


 ウォリーが声をかけると全員が戦いの準備を始めた。

 まずダーシャをウォリーの加速マンで強化する。

 ハナは少し離れた場所から遠距離魔法を撃てるように構えた。

 ウォリーは剣を構えながらクラーケンドラゴンへ近づく。

 リリはそのウォリーの後に付いていく形で移動する。

 そしてダーシャは黒炎の翼で上空へ。


 ウォリーが敵の射程距離に入る。

 直後に触手が襲いかかってきた。

 ウォリーは剣を素早く振るい、触手を切断する。

 彼の側に立つリリは防壁で触手をガードしてウォリーの負担を減らす。

 さらにハナが魔法攻撃を飛ばし、触手1本1本に器用に当てていく。


 作戦はウォリー、リリ、ハナの3人で触手の攻撃を引きつけ、出来た隙をついてダーシャが頭部まで飛んでいき、角に攻撃を与えるというものだった。

 ウォリー達が真っ先に触手の攻撃を引き受けた効果で、ダーシャに向かってくる触手の数は少なかった。

 ダーシャは黒炎の剣で触手を斬りつつ、クラーケンドラゴンの角を目指して飛行した。


「今だ!」


 ウォリー、ハナ、ダーシャの攻撃のタイミングが重なり、全ての触手が切断された瞬間が作られた。

 ダーシャはそれを見逃さず、角に向かって突っ込んでいった。

 力を込め、黒炎の剣で角に思い切り攻撃を叩き込む。


「何っ!?」


 角を攻撃してすぐ、ダーシャが驚きの声をあげた。

 ダーシャは全力で剣を叩き込んだ筈だが、角は折れていない。

 クラーケンドラゴンは角自体の強度も高いと聞いてはいたが、その硬さはダーシャの予想を遥かに上回るものだった。

 焦りによりダーシャは一瞬硬直してしまう。


 その瞬間、再生したばかりの触手の攻撃がダーシャに直撃した。

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