短編・雑多詰め合わせ

K・t

大人の石積み

 ※暴力的?な表現があります。苦手な方はご注意下さい。


 ここは静かなさいの河原。

 親よりも先に亡くなってしまった子どもが連れてこられ、永遠とも呼べる時間、石を積み続ける場所です。

 しかも、頑張って石を積んでも、恐ろしい鬼がやってきて崩してしまうのでした。


 ところが、現世で人間の寿命が延びるにつれ、賽の河原にも変化が訪れていました。

 もう大人であるのに、親が長生きであるために様々な理由で先に死んでしまい、ここにやってくる人間が増えたのです。


 一人の病院服を着た女性が、近付いてくる大きな鬼に気付いて顔を上げました。


「ちょっと、何しようってのよ。まさか折角せっかく積んだこの山を崩そうってんじゃないわよね?」


 それが我らの役目だと言わんばかりに、デコボコとしたこん棒を振り上げる冷血な鬼に対し、彼女は鼻で笑いました。


「子どもならいざ知らず、私達が大人しくやられるとでも? みんな、どう思う?」


 あちこちから「横暴だ!」、「許せない!」などといった声があがります。そして、子どもがポカンとしている中、大人たちは一人、また一人と立ち上がりました。


「大体、親より先に死ぬことが罪ってなんなのよ」


 誰だって、自分で選びたくて選んだ結末ではありません。

 小さな子どもの背丈ほどの石山を積んだ女性はその前に立ちふさがり、鬼に向かって毅然きぜんとした態度で言い放ちました。


「私だって、なりたくもない病気になって辛かったけど、最後まで闘った! お父さんもお母さんも、お医者さん達も……みんなが必死に助けてくれたから頑張れた。でも駄目だったの! その結果がこれ?」


 ふざけるんじゃない!!!

 賽の河原に身を切るような咆哮ほうこうが響き渡ります。

 それを罪だと決めつけるなら、自分を助けた全ての人達への侮辱に他ならないからです。


 彼女の横までやってきたスーツ姿の若い男性も、鬼をきつく睨みつけました。


「俺はな、車にはねられそうになった子どもを突き飛ばして、身代わりになったんだ。残した家族には悪かったと思ってる。けど、子どもを助けることが罪だとは知らなかった。じゃあ、放って置けば良かったんだよな? なぁ!?」


 なんとか言えよ!!!

 冷たい地の底をえぐるような雄叫おたけびに、とうとう大人達はこぞって走り出し、鬼に襲い掛かりました。


 こん棒が容赦なく振り下ろされます。そのたびに何人もの人間が紙切れのように吹き飛びましたが、みな抵抗を止めようとはしませんでした。


「そんなもんが効くかよ!」

「こっちはもう死んでるんだからな!!」


 数匹の鬼と何十人もの人間達との全面戦争です。人間側に武器はありませんが、なにしろここは賽の河原。石だけは売るほどありました。

 怯える子ども達を後ろに下がらせ、みんなで手あたりしだいに投げ付けます。


「ここまで積んだんだぞ、崩すとかあり得ないだろ!?」

「そうよ、スマホがあったらネットに上げたいくらいなのに!」

「殺風景すぎて映えるかは微妙だけどな!」


 誰かが参謀役を買って出て、四方八方から投げ付けたり、数人で飛び付いてこん棒を奪うよう指示したりしました。

 基本はヒット&アウェイ。もちろん目や足を狙うことも忘れません。やがて視界をやられ、転ばされた鬼達は盗られたこん棒で滅多打ちにされました。


 30分と経たず、決着はつきました。

 どんなに力があっても多勢に無勢です。長年相手にしてきた子どもにはない知恵と腕力を身に着けた大人の集団が相手では、分が悪かったのでしょう。


「……ここまでにしよう。鬼達だって、仕事でやってるんだろうからな」

「とりあえず縛っておいて、あとで責任者と今後について話し合いましょう」


 人間側もぼろぼろでしたが、顔には清々しさが浮かんでいました。


 暴力で問題を解決するのは褒められた行為ではないかもしれません。でも、ここに集められた人間は最後まで戦い抜いた末にやってきた者ばかり。

 責める人はいませんでした。


 やがて、戦いで無残にも更地状態になってしまった河原を見詰め、誰かがぽつりと呟きます。


「あ~あ、あんなに積んだのに。悔しいからもう一回積んどくか」

「やろうやろう! 私、結構楽しくてハマっちゃった」


 地上でも流行るくらいです。地道な作業が好きな人は苦にならないのでしょう。

 別の誰かが「後で鬼がわんさか攻めてきたらどうする?」と聞けば、全員が不敵に笑って声を揃えました。


『断固、戦うに決まってる!』



 ◇あとがき

 昔から「賽の河原は何歳まで行くのだろう?」と疑問に思っていました。

 軽く調べた限りでは、どうやらきちんとした答えはないみたいですね。

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