鍋の中の冷静スープは緻密な計算の元に
荒野のポロ
師走のファンタジスタ
☕️1 朔月に降り立つ神力車
重厚な檜の一枚板の看板を掲げた『望月堂』の硝子窓の向こう側で、筋骨隆々の金剛力士たちが餅をついている。
「あれが
「さすがは阿吽だ」
人々が見守る中、二人は物凄い勢いで湯気の上がる餅をついては返している。
「あれってそんなに珍しいのか?」と近くに居た長身の男に尋ねた。
「ああ、
狐顔の男は大層待ち遠しそうだ。
「神速ねぇ。確かに人が踏み込める領域じゃないね」
「あの黄色い
「そうそう、普段のよもぎ餅も美味いがな。
不意に混ざってきた齧歯類を思わせるソイツの顔も上気していて、期待に満ちているのが分かる。
「そりゃあ、ご利益がありそうだ」
*
眠ることなく人間以外が入り込む余地のない摩天楼とは違って、いにしえの都では暗くなれば早々に店も閉まり、夜は寝静まる。
だがそれは表向きの話で、実はそうした時間にこそ灯される場所もあるらしい。
夕暮れに沈む街並みを二月堂からぼんやりと眺めた後、歩いて春日大社へ向かった。ここは『望月堂』のある三条通りの真東にあたる。
苔むした石造りの灯籠の陰から光る目がこちらを見ていることに気づいてギョッとしたが、それは鹿だった。
程なくして音もなく
一年のうち鬼門にあたる丑寅、つまりは十二月を守護する
それを彼らに献上するのは慣わしであるし、都を病魔などから守護する力として、この地で暮らす者に巡り返ってくる。それこそ薬師如来が説くこの世の在り方だ。
「さて、何処へ行きたい?」
「
ほぅという顔をしたが
彼らは都を守護して駆けるついでに、こうして『仁王餅』を献上した者を運んでくれる。神通力によって時空を駆ける
夜の闇に沈む街並みを眺める間はなく、あっという間に三条通りに舞い戻ってきた。目の前にあるのは仄暗い
「ここから先、
「充分だ。助かったよ」
短いやり取りの後、
朔月の夜にしか拓けることのない
鍋の中の冷静スープは緻密な計算の元に 荒野のポロ @aomidori589
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。鍋の中の冷静スープは緻密な計算の元にの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます