第98話南の森
ジョンテ領最大級の
三人パーティの冒険者が
全員が
ただ、出現する敵の数は膨大で連戦が続き、彼らの疲労度は徐々に蓄積され、既に限界を迎えていた。
暗い森の中では、昼夜の判断が付きにくく、身体に色々な障害が発生しだす。
特に顕著なのは睡魔であろう。
「ここらで少し
「いや、
「了解」
————————
草木で覆いカムフラージュされた簡易テントの中で、一人ずつ交代で仮眠休憩をとる。
仮眠といっても、特殊な魔法薬を飲み、無理矢理身体を休ませるだけだ。
冒険者が一番無防備になるのは睡眠時である。
その問題を解消する為に生み出されたのがベップ薬だ。
——ベップ薬——
魔術師グアルディオラが開発したこの薬は、身体を強制的に短時間眠らせ、自己治癒力を極限まで引き出し身体を回復させる。
攻略中における睡眠時間を大幅に削る事を可能とした画期的な発明だ。
強い副作用がある為、
「結構進んだ気でいましたけど、とんでもない広さですね。まるで迷路ですよ」
「ああ、四角い巨大樹が隣接してるだけの似た様な風景ばっかでストレスが溜まってしょうがねぇ」
「それでも、サルサーレの奴等に先を越される訳にはいきませんよね」
「ああ、ジョンテ領には優れた
「ふぁあ、寝た寝た。
じゃあ、次はS15より先に行ってみるか」
「そうしよう。ともかく、ここを攻略すれば、羽振りのいいあの新領主に絶好のアピールになるぜ」
最近のジョンテ領の好景気を聞いて、出戻りした
これ以上の長居は、人間の気配を嗅ぎ付け敵がやってくる事を、彼らは培った経験で分かっているのだろう。
————————
超高層ビルの如き巨大樹デビルトレントが密集し、樹々の間は道となり、膨大な数の交差路が、森に入った者を迷わせる。
その樹に寄生する虫や、魔力を持つ特殊な植物が、毒、幻覚、魔法妨害などさまざまな状態異常を持ち、冒険者の行く手を阻む。
「こんな森が存在するなんて信じられんな。ジョンテのクランパーティはかなり先行したみたいだが大丈夫だろうか?」
【
彼は、今回の攻略に関して、兼ねてから強く反対していた。
この世界において、
それでも、ハイリスク・ハイリターンに賭ける冒険者は後を絶たない。
深度さえ注意すれば、そこそこの見返りが期待できるからだ。
だが、今回の任務は森の開通にあり、それはそのまま攻略と同義である可能性が高い。
さて、何が制覇の条件なのだろうかと、リヤドは頭を抱えた。
歴史を紐解いても、前例が全く無いのだ。
ともかく、当任務において、団長をパーティから外す事、指揮官の判断で撤退できる事、を条件として、今回の【
リヤド自身、【
一冒険者としては非常に血沸き肉踊る。
しかし、団員の命を預かる身としてはとても気が重い。
恐らくクラン内では、俺しか気付いていないが、団長がテツオに執心している事実は、彼女がいくら感情を表に出さないタイプだとしても、機微を注意深く読み取れば、すぐ確信へと変わった。
そして、領主が一クランの団員として在籍しているという前列の無いこのちぐはぐでおかしな状況では、彼の発言力は自ずと高くなってしまっている。
それでも、男の私から見ても、彼は不思議な魅力をもつ青年だ。
私も彼を応援したい。
だが、彼は少し生き急いでいる。
何故あんなに悪魔討伐に拘るのか?
この先、彼に惚れてしまった団長は、彼の頼みを決して断らないだろう。
団長だけは必ず守らなければいけない。
今回、サルサーレを離れる事に、副団長モーガンや古参団員から、強い反感を買った。
東の森で団長が死に掛けた事は、彼らの耳にも入った事だろう。
大きく膨れ上がり瓦解したクランは少なくない。
私もここで死ぬ訳にはいかないのだ。
「何を難しい事を考えてやがる?」
いつもより目付きが鋭くなっているヴァーディが、こいつなりの言い回しで心配している。
「リヤドさんが立てた作戦なら、今回も大丈夫っしょ?」
ここ最近、すっかり頼もしくなった成長著しい青年カンテが、根拠のない太鼓判を押す。
似たような地形が多く、そして今回の様にアタックできる人数が多い場合、やはりシラミ潰しでセーフティを積み重ねていく攻略法がベストだ。
それでも、ローラー作戦は、ギミック、罠、敵との遭遇は避けられず、少なからず犠牲を出すだろう。
森を南へ抜ければいいのだ。
中央から西へのルートは、金稼ぎ目的の新参団員や、【
安全を確保しつつ、情報を共有しながら進行する作戦だ。
枯れたデビルプラントの中をくり抜いて作った簡易拠点に、リヤド達は戻ってきた。
数十人の団員達を前にリヤドが指示を出す。
「現段階で、知り得た情報を伝える。
まず、デビルプラントは、近付いた者から無差別に魔力を吸い取る性質がある。
そして、恐らく吸い取った魔力が一定量貯まると、植物系エネミーを産み出す様だ。
知っての通り植物系エネミーは、様々な状態異常を付与してくる危険性がある為、各々注意されたし。
中でも危ないのは、アルラウネだ。
美しい見た目を持つ女型妖魔で人間を襲う。
次に、弱っている、もしくは枯れたデビルプラントを発見した者は、真っ先に知らせろ。そこが、我々の新たな中継地点となる!
以上だ!」
————————
デカスドーム・テツオ邸
プライベートルーム
複数の水晶モニターに森の風景が投影されている。
テツオはここで、森へ大量に放った蜂を模した
なるほど…………妖魔アルラウネ、ね。
魔物はすこぶる怖いが、女型と聞けば、興味が唆られる。
百聞は一見に如かず。急ぎ蜂型蟲ドローンを散らし飛ばした。
この森は基本的に暗いが、入り口から50ブロックくらいまでは、青く発光する植物が明るく照らしている。
敵は比較的弱い。
だが、50ブロックを超えた辺りから徐々に赤く光る植物が多くなり、敵が徐々に強くなるようだ。
上空から見た限り、森の広さは1000ブロック以上は軽くある。
しばらくすると、蜂の一機が60ブロック進んだ辺りで、【
「前、出ます」「バフる」「チャージ完了」「クリア」
流れる様な連携を繰り出し、眼前の花弁型モンスター三体を一瞬で屠る。
なるほど、
安全を確認した彼らは、武器を収めた。
その内の一人が、マントを広げてデビルプラントへと近寄っていく。
ん?何かあるのか?カメラの角度が悪いな。
蜂カメラを少し動かしていくと、太ももまで露出した素足が見えた。
植物の蔓が衣服の乱れた女性の腕や脚に絡み付き、自由を奪っている。
集落で攫われた女性なのか?
彼らは、女性を助けていた?
その刹那、女の身体から太く鋭い枝が伸び、男をマントごと貫いた。
植物の枝や蔓が、女を縛り付けてたのではなく、この女の身体の一部だったのだ。
「が、がはぁっ!」
「キャハハハハ!」
高笑いする女性の腕からシュルシュルと蔓が伸び、宙高く浮かび上がっていく。
魅惑的な曲線美からキラキラと光粉が舞い落ちる。
「アルラウネかっ!」「やられた!」
上を見上げる二人の足元には、既に蔓が絡み付いていた。
脚にトゲが食い込む。
恐らく、そこから毒が回る。
次に降ってくる鱗粉を吸い込めば、精神も侵されるだろう。
…………終わった。
「ゴシュジーン、助ケナイノカー?」
最近、呼び方をテツオからやっとゴシュジンと言えるようになった妖精ピピが、俺の背後から尋ねる。
「なんだ、見ていたのか」
基本、
ここで人間達と暮らす様になって心境の変化が現れた様だ。
「無理なんだ。
いくらリアルな映像でも、実際に見た場所じゃ無ければ、【転移】は出来ない」
もしあれが、俺の大事な女達であれば話は別だ。
直ちに時間を戻し、【転移】で掛けつけるだろう。
「アレ?」
「ん?どうした?」
アルラウネがとどめを刺す為に、蜘蛛の様にシュルシュルと降りてくる。
「ったく、勿体ないねぇ」
男の一人が地面に瓶を投げつけると、閃光が迸る。
すると、倒れていた男が素早く起き上がり、アルラウネの腕を剣で斬り落とした!
胸を貫かれてたのに、回復したっ?
「ああっ、アルラウネがっ!」
「ン?ゴシュジン?」
思わずアルラウネを心配してしまった俺を、ピピが怪訝そうな顔で見ている。
「ごほ【睡眠】んんっ、げふんげふんっ。
解毒、止血、回復効果があるのか。凄い薬もあるもんだ。
ん?ピピ、どうした?」
どうやらピピは、疲れていたのか急激な睡魔に陥って、いきなり寝てしまった様だ。
寝ている無防備なピピにイチモツを差し込んだところで、再び映像を巻き戻してチェックする。
あの瓶の正体は、万能薬として有名なエリクサー。
体力や怪我、状態異常をたちまち全快させる、冒険者の間では【天使の奇跡】と呼ばれる秘薬だ。
確か時価で一本100万ゴールド以上はする入手難度の高い回復薬。
まさか、こんなとこで見ることが出来るとは。
腕を斬られたアルラウネは森の中へ逃げていった。
一方、逃げる場所は無い冒険者三人は、素早く確認作業を済ませ、再び森の奥へと進んでいく。
そこで、彼らを追っていたドローンの魔力が尽きたのか、何かに壊されたのか、突如映像が途切れる。
テツオは酒を舌の中で転がしながら、別の映像に視点を切り替えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます