対決

 猛烈な斬り合いが始まっていた。宿敵を攻撃圏内に捉えた瞬間、ブラックスライムの口から吐き出された太い舌が、大気を切り裂きながら、セーコに襲いかかった。よく見ると、舌の先端から、約1メートルの部分が長刀(なぎなた)状に変形していた。

 セーコは右手の愛刀を繰り出して、舌攻撃を弾き返していた。刃と刃が噛み合う度に、金属音が響き、青白い火花が虚空に舞った。

 スライムはなかなかの戦い上手であった。セーコが前進した距離に応じて、自体を巧みに後退させていた。彼女の接近を警戒しているのだ。


 何度目かの攻撃を横へ弾き返した瞬間、セーコの体勢がやや崩れた。スライムは「この機を逃さぬ」と云わんばかりに、返す刃を蛇頭に殺到させた。長刀の切っ先が、側頭部に突き刺さる寸前、セーコは顔を逸らせて、それをかわしていた。

 鈍い音を立てて、長刀がビルの壁面に突き刺さった。次の瞬間、セーコの刀が閃いて、スライムの舌を切断していた。二つの断面から、多量の血潮が湧き出し、地獄のスコールと化して、路面に降り注いだ。体勢を整えざまに、セーコは一陣の魔風となって、スライムに迫った。


 突撃を仕掛けてくるセーコに対して、スライムは怯みも恐れもしなかった。役立たずになった舌を即座に体内に収納すると、肉の砲弾のごとく、迫るセーコに体当たりを浴びせてきた。まったく大した奴である。

 よけざまに放たれたセーコの刀が、スライムの脇腹(なのか?)を深々と抉っていた。その瞬間「ばきん」という凄い音を立てて、刀身が折れ飛んでいた。

 スライムは口内の歯牙を動員して、セーコの刀を防御したのだ。だが、完全には防ぎ切れなかったらしい。いびつに割れた脇腹から、血飛沫がほとばしった。しかしそれは、重傷ではあるが、致命傷ではなかった。

 スライムは猛然たる体当たりを再度セーコに浴びせてきた。セーコは上空に飛んでこれを回避した。仮*ラ*ダー級の跳躍力と云えた。とても人間業とは思えない。彼女の右手が背中の予備刀に伸びていた。


 落下するセーコの両手が、予備刀の柄を逆さまの形で握っていた。危険を察知したスライムがその場から逃げるよりも一瞬早く、セーコの刀が化物の脳天に埋まっていた。

 鋭利な剣尖が、怪物最大の弱点である「肝っ玉」を突き破っていた。スライムの胴体が凍結したみたいに静止していた。鍔元付近まで潜り込んでいる刀を、セーコが強引に引き抜いた途端、血の噴水が噴き上がり、ほぼ同時に、巨大な口から、血の洪水が溢れ出した。


 刀身にからみついた血の糸を拭いざまに、セーコは予備刀を背中の鞘に納めた。その際に発する「かちん」という鍔鳴りの音を待っていたかのように、スライム界の勇者は、地響きを立てて、路上に崩れ落ちた。

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