第14話
第一回『春季バトルロイヤル』当日。
僕とレオナルドが広間に転移する頃には、多くのプレイヤーで賑わっていた。
多くは生産職プレイヤーばかり。勿論、その他のジョブプレイヤーの姿もある。
中央に運営関係者が座るだろう実況席とそこから距離を置いて、取り囲むように観客席が配置。
巨大なモニターが全方位で見られるように宙に浮かび、今はイベントロゴマークが表示されている。
普段、広場にこのような設備は無い。イベント時のみ配置されるのだろう。
参加受付には、既に衣装をまとったプレイヤーの姿が。
レオナルドが羨ましそうに彼らを眺める傍らで、NPCのバーチャル飲食と応援グッズ販売を見つけた。
僕が適当にバーチャル飲食を購入。
レオナルドを呼び、共にNPCの観客席誘導列に並ぶ。
「あ~! いた!!」
折角のいい雰囲気をぶち壊すように、例の糞餓鬼・サクラが僕らを発見して駆け寄った。
僕が思わず溜息を漏らし、彼女に言う。
「僕らはイベントに参加していない。これで気が済んだだろう? 早くギルドに帰ってホノカを応援したらどうだい」
「イベント始まるまで分からないでしょー!」
癇癪気味にサクラが列の合間に入って来たのに、後ろで並んでいた他プレイヤーが不愉快そうな表情をしている。
NPCもサクラに割り込むのを止めるよう促すが、彼女は前のように騒ぎ立てそうだった。
僕より先にレオナルドが「もう一度並び直します」と言い。一旦、列から離れる。
それからも、僕とサクラを隣同士にしないようレオナルドが席の真ん中に座り。
サクラがバーチャル飲食が欲しがるので、仕方なくレオナルド自身の分を渡したり。
レオナルドに一方的にホノカに関する自慢話を喋り続けたり……
よくまあ舌が回る奴だと、僕は再度溜息ついて、誤魔化すつもりでバーチャル飲食を自棄食いする。
すると、観客席のプレイヤー全員に運営からメッセージが通達され、音声案内が脳へダイレクトに響く。
騒がしかったプレイヤー達も自然と静まる。
『観客席のプレイヤーの皆様にお知らせです。イベント開始十分前となりました』
『イベントはアクセス集中が予想されます。誠にお手数ですが、生中継の実況配信の停止等、サーバー負担軽減にご協力をお願いします』
『バーチャル飲食や応援グッズはイベント開催中、NPCが観客席を回り、販売いたします』
『観客席で他プレイヤーに対する迷惑行為を行ったプレイヤーは、運営の判断により強制退去されます』
『お知らせは以上となります』
『それでは、心行くまでご鑑賞ください』
アナウンス終了から、しばし間を置いて実況席に二名の男女のアバターが転移する。
女性の方の声が会場全体に響き渡った。
観客にいるプレイヤーの声にかき消されないよう、声量を大きく設定されているのだろう。
「皆様! お待たせしました。『マギア・シーズン・オンライン』サービス開始後、初イベントとなります。第一回『春季バトルロイヤル』! 間も無く開始します!! 実況解説役として、私わたくし、普段はお客様対応窓口におります。キャサリンと――」
「開発部ディレクターの中田でお送りします。皆さん、盛り上がっていますか!」
二人に振られて、他プレイヤー達も歓喜して躍り上がる。
キャサリンと中田の二名が席につくと、早速モニター映像が切り替わり、こことは異なる特設広場で待機する参加プレイヤー達の様子が映し出された。
「中田さん! サービス開始から一か月も経過してませんが、どうですかっ」
「うーん。ほとんどのプレイヤーはジョブ2に到達してますね」
「ジョブ2の解放条件、なかなか捻くれてると賛否ありましたが~」
「僕としては判明するまで、もう少し時間がかかると思ってたんですがねぇ。案外、早くバレちゃいました」
「いやぁ。プレイヤーの皆様も大変だったでしょ~」
キャサリンの言葉に、同意する他プレイヤーもいる状況で、中田が話題を切り替えた。
中田は中継映像を眺めながら語り出す。
「え~。さて、現時点での参加プレイヤーのジョブ割合ですが、剣士系、魔法使い系が一位二位を争ってますね」
「どちらも使いやすいですからね~」
「その次は鍛冶師系、格闘家系、盗賊系、弓兵系、銃使い系、盾兵系……と続きますね。鍛冶師系は生産職の面もありますが、戦闘面でも活躍できます」
参加プレイヤーの中継映像で、レオナルドが驚く。
「ルイス。馬いるぞ、馬!」
「弓兵の昇格後のジョブ『騎射』だね。馬に騎乗して射ることができる」
所謂、戦闘で仕様する装備の一つながら、ペット要素としてある意味親しまれている馬。
『騎射』を含めた他ジョブと接触する機会が少ない故。
今回のイベントでも、驚く要素が次々と発見できる機会だろう。
レオナルドが面白そうに映像に映る馬を眺めているのを、サクラが鼻で笑った。
「アンタ、そんな事も知らないワケ~? 攻略サイトとか見なさいよ!」
「いや、まぁ……弓使う奴が周りにいないからさ」
サクラが作った嫌な空気を壊すように、キャサリンが「おおっと!?」と声を荒げる。
「『薬剤師』、いえ『医者ドクター』の方! 結構いらっしゃいますね!? 意外や意外です!」
「十名弱ですがいますねー。どういった動きを見せてくれるか、楽しみです」
映像で『医者』の面々が映し出されているが、彼らはひと塊になっていて。
リーダー格らしき男性プレイヤーが他の『医者』プレイヤーに指示を伝えているようだった。
あのプレイヤーは……僕も知っている。
異端中の異端。
『医・者』統一のギルド『ヒュギエイア』のギルドマスター・オズワルドだ。
またもや驚きの様子でキャサリンは反応した。
「ちょ、ええっ!? 『魂食い』と『武将』はそれぞれ一名だけ!?」
「武士系はともかく、墓守系が一名というのは残念ですね。仕様の見直しを検討しましょうか」
「大鎌の巻き込みを何とかして下さいよ、中田さーん!」
「よく言われるんですけどねぇ。アレ駄目にしちゃうと全体的に調整しないといけないですし、膠着状態の味方を吹き飛ばして、緊急回避って裏技も使えなくなるんですよ」
「う、うーん。成程。じゃあ武士系の調整を行いましょう!」
「武士系も全体の割合は決して少ない訳じゃないんですがね~~」
映し出されたクリムゾンレッドを基調とした女性の『魂食い』。
レオナルドが「どこかで見た事あるような」と呟く。僕は彼に教えた。
「『ソウルオペレーション』の解説動画をあげてた人だね。確か『紅殻あかがら』ってプレイヤーネームの」
「あ! あの人か」
それからムサシも映像で映し出された矢先。
最後の最後に、キャサリンが今日一番の驚愕を見せた。
「ななななんとぉ!? たった今入った情報によりますと……参加者0でした『裁縫師』ですが、エントリーされたプレイヤーが現れたとのこと!」
「あー、ちょっと安心しましたね~」
中田が呑気なコメントを残すが、他プレイヤーからは衝撃が走ったようだ。
レオナルドはカサブランカの印象で理解していないだろう。
刺繡師系の武器『大鋏』が『大鎌』以上に使いにくい事や、そもそも刺繡師系を選ぶプレイヤーは戦闘よりも生産を楽しむのが常だからだ。
案の定、映像に映ったのはカサブランカ。
鼻高い顔立ちに銀目、白髪のロングウェーブ。服装は灰色のレギンス、長袖の白シャツ。
容姿は格別変ではないが、彼女が『裁縫師』なのと一際シンプル過ぎる出で立ちに、他プレイヤーからも注目の視線が注がれていた。
観客のプレイヤーも「アレ誰?」「どっかの有名プレイヤーかな」と口々に語り合う。
映像を眺め続けていたレオナルドが僕に尋ねる。
「同じ制服?で衣装統一してる連中がギルド入ってる奴らなのか?」
「うん、間違いないね」
各々のギルド所属プレイヤーは、特徴的な衣装で格好をギルドで統一していた。
イベント会場にランダムに転移される為、遠目から分かりやすいように工夫している。
彼らは以前、僕が触れた愚行を行う可能性が高い。
手元に何等かの画面を表示させ、キャサリンが「はい」と一声の後、告げた。
「只今を持ちまして、参加者は締め切りました! えーと……? 参加プレイヤー総数は、合計で5031名、です!? あ、あれれ。少なすぎません!?」
「うーん、VRMMOの上級者を恐れて初心者が委縮してしまったのかもしれませんねぇー」
五千。という数だけは多く感じるが、プレイヤー総数と比較すると圧倒的に少ない。
貢献度狙いでギルド所属の生産職や不慣れな初心者も多く参加すると、僕も予想していた。
実際は、何故か過度な参加は見られない。
本当の意味で強者ばかりが、揃いに揃ったように思える。
『武将』や『魂食い』、『裁縫師』が一人だけなんて異常事態は、普通は起きない。
だが、これを自慢げにしている者が一人。
「初心者は参加すんなって、ホノカちゃんのアカウントで皆に言っておいたからね~! お陰で強い奴だけのイベントになったのよ! これが当たり前なの!!」
レオナルドの隣でドヤ顔するサクラだ。どうやら、コイツの仕業のようだ。
コイツのわがまま一つならともかく、ホノカのSNSアカウントでそれをやったなら多少影響力はある。
彼女のファンや、それに便乗したタチ悪い輩が、初心者に対するイベント参加自粛を促した……
最悪、業務妨害で訴えられてくれ。
胸糞悪い空気を打ち消してくれる勢いで、キャサリンが叫んだ。
「さあ! まもなく第一回『春季バトルロイヤル』開催いたします! 参加プレイヤーはイベント専用エリアに転移され、カウントダウンが開始します!!」
中継映像が特設広場から、桜や梅を含めた木々と花畑、清らかに流れる小川のある春エリアの一角を切り取ったような光景を映し出す。
そこへ次々と転移していく参加プレイヤー達。
モニターに表示されるカウントダウンを観客のプレイヤーも叫ぶ中。
数値が0となった瞬間。いよいよ、地獄のバトルロイヤルが開始されるのだった。
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